サマリー
2023年の世界経済における大きな注目点であった、欧米を中心とした金融引き締め政策は、おおむね終了する見込みとなってきた(金融緩和色が強い日本や中国は例外的)。一時は金融当局の想定以上に高騰したインフレ率も、足元では各国のインフレ目標へと収束する見通しが立ち始めている。
一方で、金融引き締めの弊害として、景気の減速懸念が、範囲は限定的であるもののくすぶり続けている。世界経済は引き続き難しい局面にあることは間違いない。これまで金融引き締めを主導してきた欧米をはじめ、景気のソフトランディングに向けて各国には政策面での難しい舵取りが求められている。2024年も各国の経済や政策の行方を慎重に見極める必要がある。
欧米では、金融緩和に転換する時期や、その後の利下げペースが注目される。特に米国では、足元まで消費が堅調を維持してきたことから、これを冷え込ませないことが肝要だ。マーケットとも緊密な対話を続けながら、消費者マインドを大きく悪化させない政策運営が求められる。欧州では、ほぼゼロ成長という厳しい状況を乗り越えつつあることから、当面はインフレを再燃させないことが重視されよう。金融緩和への転換は米国よりもやや遅れるかもしれない。
一方、金融緩和が続いた日本と中国について、日本はやや先行して緩和からの出口に接近しつつある。緩和継続を背景とした為替の円安が一巡するならば、インフレ目標への収束と経済の正常化をサポートしよう。デフレ懸念も指摘される中国では、深刻な不動産不況が重荷となっているが、足元では徐々に対策が出始めている。それらが効果を発揮するかが注目される。
その他の新興国経済については、相対的に豊富な労働供給を背景に、総じて回復基調が継続している。先進国での金利上昇を受けて、新興国からは一時的に資金流出の動きが見られたものの、欧米が利下げに転じるならば、資金流出への懸念は和らぐだろう。
なお、ウクライナや中東での紛争をはじめとする地政学リスクは、インフレ再燃のリスク要因として引き続き注意が必要だ。
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