サマリー
- 堅調な景気拡大が続くが、成長速度は17年度にピークアウト:2017年10-12月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2017年度が前年度比+1.8%(前回:同+1.7%)、2018年度が同+1.2%(同:同+1.3%)、2019年度が同+0.8%(同:同+0.8%)である。日本経済は、①堅調な外需、②在庫投資、③耐久財の買い替え需要に支えられて、成長の加速を続けてきた。しかし、これら三つの要因が剥落することに加え、2019年10月に予定されている消費増税に伴う負の所得効果が見込まれる中、先行きの日本経済は2019年度にかけて減速を続ける見通しである。
- 世界経済に「落とし穴」はあるか?:本予測では、世界経済が抱える五つのリスク要因について詳細に分析した。まず①米国発の「世界株安・世界生産減」のリスクに関しては、米国株はやや割高な可能性はあるものの、直ちに世界的な生産減少にまでは至らないと考えている。次に②米欧の出口戦略によって世界経済は、2018年に▲0.08%、2019年に▲0.30%下押しされる。さらに、③円高については、米国が「ドル高政策」から「ドル安政策」へと転換するリスクに要注意であり、10円の円高によって日本企業の経常収益は、▲1.9兆円程度押し下げられる計算となる。そして、④原油価格の上昇については、2017年12月時点で57.9ドル/bblだった原油価格が10ドル/bbl上昇することで2018~2020年の実質GDPの水準は▲0.12%程度押し下げられる。最後に⑤中国では、引き続き過剰債務問題が懸念され、金利上昇に対して脆弱な状態にある。
- アベノミクス6年目の賃上げ実現に向けたカギは?:日本の賃金上昇実現に向けた課題について国際比較と労働移動の観点から分析した。中長期的に見ると、時間当たり実質賃金の伸びが低下しているのは、いずれの国も実質労働生産性要因の低下によるところが大きい。経済成長の源泉となる労働生産性を高めるためには、雇用のミスマッチの解消や、研究開発投資を中心とする無形資産への投資などを通じてMFPを向上させることが重要な課題だ。また、国際的に見て、日本は雇用の流動性が低い部類に属しており、そのことが賃金上昇の重石となっている可能性が指摘できる。労働規制の緩和や労働移動を支援する政策対応などを通じて雇用の流動性を改善させ、それを労働生産性向上と賃金上昇につなげることが重要な課題だと言えよう。
- 地方の賃上げに不可欠な労働生産性上昇に向けた課題は?:地方の賃金引き上げにも、各地域の労働生産性の引き上げは最重要課題だ。以前より地方でも資本装備率とTFPの影響が弱まり、労働の質が相対的に大きな要因になりつつある。西日本では、産業構成が高い医療,福祉分野において付加価値額の伸び率が低い一方、従業者数の伸び率は高く、労働生産性の伸び率に対するマイナス要因となっている。同一産業内でも地域間で生産性格差があり、特に事業規模が50人以上の大規模と、1~4人の零細な事業所で地域間格差が大きい。さらに地方で多い建設業や卸売業,小売業では労働生産性の低い小・中規模事業所へ人材が滞留しやすく、労働生産性は上がりにくい。比較優位分野を強化しつつ、地域でも競争やM&Aを促すビジネス環境、高度人材の地域間交流や地域の大学と企業・自治体との連携、人口を集積させる政策などが重要だ。
- 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。2016年9月に導入した新たな金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は17年度+3.2%、18年度▲1.7%、19年度+1.7%と想定。
(2)為替レートは17年度110.8円/㌦、18年度106.0円/㌦、19年度106.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は18年+2.6%、19年+2.3%とした。
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