第169回日本経済予測(改訂版)
-日本経済は当面下振れ圧力が強いが、2011 年度下期以降持ち直しへ-
2011年06月09日
サマリー
(1)経済見通しを改訂:2011年1-3月期GDP二次速報を受け、2011-12年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2011年度が前年度比▲0.3%(前回予想:同▲0.3%)、2012年度が同+3.4%(同:同+3.4%)である。日本経済は、当面下振れ圧力の強い状態が続くものの、2011年度下期以降は、復興需要に支えられて回復軌道を辿る見通しである。
(2)東日本大震災が日本経済に与える影響:東日本大震災は、基本的に3つのルートを通じて2011年度の実質GDPを1.2%程度押し下げる。当社のメインシナリオでは、[1]サプライチェーンの寸断による生産減(2011年度の実質GDPの押し下げ幅:▲0.6%)、[2]電力不足による生産減(同:▲0.1%)、[3]消費者マインド悪化等による個人消費の下振れ(同:▲0.5%)、という3要因を織り込んでいる。他方で、2011年7-9月以降は、復興需要が実質GDPを下支えする見通しである。現時点では、2011~2015年度にかけて、復興需要が実質GDPの水準を平均+0.8%ずつ下支えする展開を想定している。さらに、2011年1-3月期の実質GDP成長率が下振れし、震災発生前の当社予想と比べ、所謂「成長率のゲタ」が0.9%ポイント低下したことを勘案すると、東日本大震災による、2011年度の実質GDP成長率に対する押し下げ幅は▲1.4%程度と見られる。
(3)日本経済を取り巻く外部環境とリスク要因:当社は、[1]2012年にかけて、グローバルな「政治的ビジネスサイクル」の好転が見込まれること、[2]為替市場では当面円安が予想されること、という2点が好材料であると考えている。他方で、リスク要因としては、「地政学的リスク」を背景に原油価格が急騰した場合、日本経済が「スタグフレーション(不況下の物価高)」に陥る可能性が挙げられよう。
(4)東日本大震災後の日本経済の構造変化と、今後の政策課題:東日本大震災の発生を受け、日本経済を取り巻く環境は、[1]財政赤字の拡大、[2]経常黒字の縮小、[3]「円高」から「円安」、[4]「デフレ」から「インフレ(若しくは『スタグフレーション』)」、[5]長期金利は「低下」から「上昇」、という5つの構造変化を起こす可能性がある。今回の震災の様な「供給ショック」が起きた際に最も警戒すべきは、「クラウディングアウト(大量の国債発行により金利が上昇し、民間の経済活動が抑制されてしまうこと)」の発生である。今後、政策面では、[1]経済の「供給サイド」の政策(電力不足問題の解決、規制緩和、法人税減税、環太平洋経済連携協定への参加等)と、[2]「財政規律」の維持が、従来以上に重要となろう。
(5)日銀の金融政策:震災発生の影響もあり、少なくとも日銀は2012年度一杯、政策金利を据え置く見通しである。景気下振れ懸念が強まる場合には、日銀が基金の積み増し等、追加緩和に踏み切る可能性もあろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は2011年度+4.2%、2012年度+10.4%と想定。消費税率引き上げは想定せず。
(2)為替レートは2011年度82.0円/ドル、2012年度82.0円/ドルとした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は2011年+2.7%、12年+2.9%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年02月26日
有価証券の評価②
「満期保有目的の債券」の分類基準と評価方法について解説
-
2021年02月26日
2021年1月鉱工業生産
生産指数は春節要因や設備投資の回復を受け3ヶ月ぶりの上昇
-
2021年02月26日
新局面を迎えるナウキャスティング
新型コロナが促すマクロ経済分析へのデータサイエンスの本格的導入
-
2021年02月25日
量的緩和政策下の金融調節
金融調節から非伝統的金融政策を考える②
-
2021年02月25日
コロナ危機と選挙の関係~米欧編~
よく読まれているリサーチレポート
-
2020年12月17日
2021年の日本経済見通し
+2%超の成長を見込むも感染状況次第で上下に大きく振れる可能性
-
2020年12月30日
東証市場再編の概要とTOPIXの見直し
影響が大きそうな流通株式の定義の変更
-
2020年04月13日
緊急経済対策の30万円の給付対象者概要と残された論点
ひとり親世帯や年金を受給しながら働く世帯などに検討の余地あり
-
2020年12月28日
改正会社法施行規則 取締役の報酬等の決定方針
-
2020年08月14日
来春に改訂されるCGコードの論点
東証再編時における市場選択の観点からも要注目