米国経済に潜む短期・中長期の下振れリスクと日本経済への影響

株安・関税政策・移民政策強化で日本のGDPは29年までに0.33%減

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2025年11月25日

サマリー

◆米国の個人消費は、株高に支えられて好調な高所得層と、実質所得が伸び悩む低所得層で二極化している。資産効果が消費をけん引する状況で注意すべきは株価の急激な落ち込みだが、世界金融危機の直前と比べると、家計向け、企業向けともに主要なローン市場で信用不安が広まるリスクは小さいと評価できる。一方、プライベートクレジット市場では債務残高比率が上昇している。インフレ率が高止まりすれば、引き締め的な金融政策の継続によって、プライベートクレジット市場での破産件数の増加やそれに伴う株安が発生する可能性があり、警戒が必要だ。

◆トランプ米政権による高関税政策(トランプ関税)は、潜在成長率を下押しし、米国経済に中長期的に悪影響を与える可能性がある。確かに関税率引き上げは保護産業へは一定程度のプラスの影響があるものの、保護産業に対する追加関税が価格に転嫁されれば、より下流に位置する産業の生産コストは増加する。これが同産業の競争力の低下を通じて生産水準を下押しするだけでなく、雇用や設備投資にも悪影響を及ぼすと考えられる。トランプ関税によって2027年の米国内生産は10%程度下押しされるとみられ、とりわけ自動車・同部品や一次金属、建設業などで悪影響が大きい。

◆株安やトランプ関税のほか、トランプ政権が重視している不法移民政策の強化によって、米国の実質GDPは2029年時点で合計3.2%押し下げられるとみられる。たとえAI技術の普及により生産性が大幅に向上しても、マイナスの影響が全て相殺されるわけではない。当社のマクロモデルで試算すると、米国経済の下振れにより、日本の実質GDPは2029年に最大で0.33%下押しされる。

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