サマリー
◆日本ではインフレ率の高まりを受け、名目GDP成長率が上昇した一方、名目実効金利(純利払い費を純債務残高で除した値)の水準は依然低い。この結果、名目GDP成長率が名目実効金利を上回るという「ドーマー条件」が成立したことで、23年度は国・地方の基礎的財政収支(PB)赤字と純債務残高対GDP比の低下が両立した。本稿では、ドーマー条件が成立している現状の持続性を検討し、先行きの財政運営への示唆を見出す。
◆日本経済がインフレ状態に移行しても、デフレ・低インフレ期に発行された低い表面利率の国債が当面の間は大量に残るため、名目実効金利の上昇ペースは緩やかなものにとどまる見込みだ。他方、インフレ率が高まる分、名目GDP成長率は均して見れば過去と比較して高い状態が続くとみられる。このため、急激な景気後退に陥らない限りは、日本では当面の間はドーマー条件が成立する可能性が高いだろう。
◆取得可能な世界各国のデータを基にドーマー条件とインフレの関係を整理しても、インフレ率が高まるほど、ドーマー条件は成立しやすい傾向が確認される。だが、インフレ率が高まっても長期金利(新発国債の金利)と名目GDP成長率の差は低下しない。インフレ率の高まりによってドーマー条件が一時的に満たされても、時間を経るごとに高い表面利率の国債に置き換わっていくため、長期的にはドーマー条件は満たされにくい。
◆さらに、ドーマー条件と債務残高の関係を整理すると、現在の日本のような「高債務状態」ではドーマー条件が満たされにくい傾向がある。公的債務残高が大きいほど、リスクプレミアムが高まりやすく名目実効金利が上昇しやすいことに加え、実質GDP成長率が低下しやすくなることが背景にあるとみられる。
◆以上を踏まえると、ドーマー条件が当面の間は満たされたとしても、長期的には同条件が成立しないことを前提とした財政運営が望ましいだろう。財政の持続可能性を確保するためには、大規模な補正予算編成からの脱却やワイズ・スペンディング(賢い支出)の徹底を通じて、PBを黒字化させることが不可欠だ。
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