2023年は円安よりも円高リスクに注意

日米の生産性格差拡大が最近の円安ドル高に及ぼした影響は限定的か

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2022年11月25日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉
  • 経済調査部 エコノミスト 岸川 和馬

サマリー

◆ドル円レートの先行きを考えるため、過去の米国の利上げ局面におけるドル円レートと日米金利差の関係を定量的に整理した。利上げが終了に近づくと、ドル円レートに対する金利差の影響度や感応度は小さくなる傾向が見られる。今回は2023年中に利上げが終了する可能性が高まっており、そうなれば、ドル円レートは金利差以外の経済の基礎的諸条件(ファンダメンタルズ)などの影響も受けて変動するようになるとみられる。

◆バラッサ・サミュエルソン効果を背景に、日本の製造業の競争力低下が今回の円安ドル高を招いたとの指摘がある。だが、2010年代以降の日米の生産性格差は比較的安定しており、最近の円安ドル高に及ぼした影響は限定的と考えられる。為替市場関係者などがしばしば注目する購買力平価に照らせば、現在は大幅な円安水準にある。とりわけ米国が深刻な景気後退に陥る場合、円キャリー取引の巻き戻しもあり、円高ドル安が急速に進む可能性がある。2023年は円安よりも円高のリスクに注意する必要があろう。

◆円安を是正するため日本銀行に対して利上げを求める声が聞かれるが、2%の物価安定目標の達成を見通せるような状況にはなく、当面の間は金融緩和を継続することが望ましい。マクロモデルを用いて試算すると、円安是正のために日本銀行が利上げを行うことは経済への悪影響の方がはるかに大きく、経済的合理性は見出しにくい。金融政策の見直しは為替ではなく賃金の動向に大きく左右され、当面は2023年春闘での賃上げ率が注目される。

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