サマリー
◆5月14日の経済財政諮問会議において菅義偉首相は、2021年度の最低賃金について、「より早期に全国平均1,000円とすることを目指し、本年の引き上げに取り組む」と述べた。本稿では同会議の有識者議員の提出資料をもとに、①労働市場での賃金動向、②生活保護水準や貧困線との関係、③国際的に見た日本の最低賃金の水準、④最低賃金の地域間格差がもたらす人口移動への影響、⑤コロナショックの影響が大きい業種の低賃金労働者への対応、という5つの視点から検討する。
◆賃金相場の上昇が新型コロナウイルス感染症の拡大後も続いていることを踏まえると、2021年度の最低賃金は引き上げの余地がある。最低賃金と生活保護水準や貧困線との関係を再検討する必要もありそうだ。だが、「日本の最低賃金は国際的に見て低い」「最低賃金の地域間格差は地方から大都市圏への人口流出を促している」との指摘は妥当でなく、最低賃金を積極的に引き上げる根拠にはならない。感染が拡大する中での最低賃金の引き上げは、宿泊・飲食サービス業などの労働需要の回復を妨げる恐れがある。2021年度の最低賃金の改定では経済実態を踏まえたきめ細かい議論が不可欠だ。
◆英国における最低賃金の2020年目標(賃金中央値の60%)を日本に当てはめると853円に相当する。2024年目標(同2/3)は947円だ。そのため、2020年度の日本の最低賃金(全国加重平均で902円)は英国の2020年目標を達成していたことになる。もっとも、これは1,000円という日本の目標を引き下げる必要があることを必ずしも意味しない。問題は、目標設定に関する議論が深められていないことにある。日本社会が目指すべき最低賃金の水準とはどのようなものか多面的に検討する必要があろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
2025年8月消費統計
サービス消費が強く、総じて見れば前月から小幅に増加
2025年10月07日
-
財政悪化が日本経済にもたらす影響とリスクの定量評価
成長力強化と財政健全化で将来の財政危機発生リスクの抑制を
2025年10月07日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日