最低賃金の引き上げに関する5つの視点

21年度の最低賃金改定では経済実態を踏まえたきめ細かい議論を

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2021年05月25日

サマリー

◆5月14日の経済財政諮問会議において菅義偉首相は、2021年度の最低賃金について、「より早期に全国平均1,000円とすることを目指し、本年の引き上げに取り組む」と述べた。本稿では同会議の有識者議員の提出資料をもとに、①労働市場での賃金動向、②生活保護水準や貧困線との関係、③国際的に見た日本の最低賃金の水準、④最低賃金の地域間格差がもたらす人口移動への影響、⑤コロナショックの影響が大きい業種の低賃金労働者への対応、という5つの視点から検討する。

◆賃金相場の上昇が新型コロナウイルス感染症の拡大後も続いていることを踏まえると、2021年度の最低賃金は引き上げの余地がある。最低賃金と生活保護水準や貧困線との関係を再検討する必要もありそうだ。だが、「日本の最低賃金は国際的に見て低い」「最低賃金の地域間格差は地方から大都市圏への人口流出を促している」との指摘は妥当でなく、最低賃金を積極的に引き上げる根拠にはならない。感染が拡大する中での最低賃金の引き上げは、宿泊・飲食サービス業などの労働需要の回復を妨げる恐れがある。2021年度の最低賃金の改定では経済実態を踏まえたきめ細かい議論が不可欠だ。

◆英国における最低賃金の2020年目標(賃金中央値の60%)を日本に当てはめると853円に相当する。2024年目標(同2/3)は947円だ。そのため、2020年度の日本の最低賃金(全国加重平均で902円)は英国の2020年目標を達成していたことになる。もっとも、これは1,000円という日本の目標を引き下げる必要があることを必ずしも意味しない。問題は、目標設定に関する議論が深められていないことにある。日本社会が目指すべき最低賃金の水準とはどのようなものか多面的に検討する必要があろう。

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