サマリー
年初の米国・イランの対立をきっかけとする金融市場の動揺は早期に収束した。むしろ現状では、米軍によるイラン革命防衛隊のソレイマニ氏殺害以前よりも原油価格は低位にあり、円も安くなっている。株価は米国を中心に絶好調である。そのカギはトランプ米政権のプライオリティの所在がはっきりしたことにあろう。もとよりトランプ氏が秋の大統領選挙を最重要視していることは広く認識されていたが、これまでの同氏の前言撤回や予測困難な言動などもあり、一貫した政策の遂行についての疑念は根強く残っていた。それが払拭されたとまでは言い切れないが、対イラン対立の激化回避の姿勢が示されたことで、トランプ政策が「選挙に得か損か」を軸として展開されるという見通しの確度が高まった。つまり政策にかかわる不確実性が後退したのである。であれば対中摩擦の棚上げも、従前よりも素直に解釈できるようになる。摩擦の深刻化は米国景気にマイナスであり、それは再選に不利に働く。従って少なくとも選挙が終わるまでは対中摩擦激化はないだろうというシンプルな見通しの妥当性が増したということだ。ある意味、2020年の世界経済はハプニングに見舞われながらも、かえってそれが奏功して順当なスタートを切ったといえそうだ。ただし2020年は前年に顕著となった市場(好調な株価)と実体経済(の不調)の乖離が収斂するかにも注目しておく必要がある。足元ではその乖離がより明確化してしまった格好であり、不確実性の低減が世界貿易の回復、製造業の景況感好転に結び付いていくことが、波乱の少ない2020年の世界経済には必須の条件となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2020年1月
Ⅰ.2020年の世界経済、「適温経済」への期待に潜むリスク Ⅱ.企業活動に見る消費税増税の影響
2020年01月22日
-
米国経済見通し 大統領選に向けて一直線
トランプ大統領は米中協定で実績作り、民主党候補者選は混戦模様
2020年01月22日
-
欧州経済見通し Brexit後への期待と不安
英国とEUの新たな通商協議開始へ
2020年01月23日
-
2020年の中国経済見通し
下振れリスクは限定的。米中摩擦一段落、インフラ増強、金融緩和
2020年01月22日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日