現役世代の将来不安と消費

満たされなかった貯蓄動機が個人消費の回復を阻む

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2016年10月31日

  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太
  • 経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄

サマリー

◆本稿では2000年代以降のデータを基に、現役世代(60歳未満の勤労者)の消費低迷の背景について、将来不安という視点から年齢階級ごとに分析した。


◆データから、全ての現役世代において平均貯蓄率の上昇が消費支出減少の一因であることが確認された。特に29歳以下では、他の世代と比較して急激な平均貯蓄率の上昇が見られる。それを裏付けるように、全ての年齢階級の現役世代で貯蓄動機が強まっていることも分かった。


◆全ての年齢階級で貯蓄動機が強まっているにも関わらず、29歳以下の現役世代だけで顕著な貯蓄率の上昇が見られた要因は、この年齢階級では可処分所得が減少しなかったため、家計に貯蓄をする余力があったからだと考えられる。


◆今後、賃金が上昇しても現役世代の消費支出はあまり伸びない可能性がある。なぜなら、29歳以下の世代と同様に、30代以上の世代でも貯蓄動機が強まっており、賃金上昇による家計の余力が貯蓄に吸収されてしまうと考えられるからだ。


◆また、貯蓄動機の背景にある将来不安として金融資産の残高不足が考えられる。ライフサイクルによる金融純資産の変化をコーホート(同じ出生年の人々のグループ)で比較したところ、1966年~1975年以降に生まれた世代の金融純資産の積み上がりが、それより前の世代と比較して不十分であり、将来不安も大きい可能性が高い。


◆さらに、非正規雇用者数の増加と、年金支給開始年齢と定年年齢の乖離も将来不安として挙げられる。前者は25歳未満を除く全ての年齢階級で、後者は現役世代の中でも中高年の世代で、その影響が強いと考えられる。


◆本稿の分析では住宅資産などの実物資産は含まれていないが、日本でも、中古住宅市場の活性化やリバースモーゲージの普及など住宅資産からキャッシュフローを生み出す環境が整えば、将来不安も軽減され、賃金上昇の効果が貯蓄へと吸収されてしまうことを防ぐことができるのではないだろうか。

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