サマリー
◆本稿では2000年代以降のデータを基に、現役世代(60歳未満の勤労者)の消費低迷の背景について、将来不安という視点から年齢階級ごとに分析した。
◆データから、全ての現役世代において平均貯蓄率の上昇が消費支出減少の一因であることが確認された。特に29歳以下では、他の世代と比較して急激な平均貯蓄率の上昇が見られる。それを裏付けるように、全ての年齢階級の現役世代で貯蓄動機が強まっていることも分かった。
◆全ての年齢階級で貯蓄動機が強まっているにも関わらず、29歳以下の現役世代だけで顕著な貯蓄率の上昇が見られた要因は、この年齢階級では可処分所得が減少しなかったため、家計に貯蓄をする余力があったからだと考えられる。
◆今後、賃金が上昇しても現役世代の消費支出はあまり伸びない可能性がある。なぜなら、29歳以下の世代と同様に、30代以上の世代でも貯蓄動機が強まっており、賃金上昇による家計の余力が貯蓄に吸収されてしまうと考えられるからだ。
◆また、貯蓄動機の背景にある将来不安として金融資産の残高不足が考えられる。ライフサイクルによる金融純資産の変化をコーホート(同じ出生年の人々のグループ)で比較したところ、1966年~1975年以降に生まれた世代の金融純資産の積み上がりが、それより前の世代と比較して不十分であり、将来不安も大きい可能性が高い。
◆さらに、非正規雇用者数の増加と、年金支給開始年齢と定年年齢の乖離も将来不安として挙げられる。前者は25歳未満を除く全ての年齢階級で、後者は現役世代の中でも中高年の世代で、その影響が強いと考えられる。
◆本稿の分析では住宅資産などの実物資産は含まれていないが、日本でも、中古住宅市場の活性化やリバースモーゲージの普及など住宅資産からキャッシュフローを生み出す環境が整えば、将来不安も軽減され、賃金上昇の効果が貯蓄へと吸収されてしまうことを防ぐことができるのではないだろうか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年9月雇用統計
失業率は前月から横ばいも、労働参加と就業拡大が進展
2025年10月31日
-
2025年7-9月期GDP(1次速報)予測~前期比年率▲2.8%を予想
トランプ関税や前期からの反動減で6四半期ぶりのマイナス成長か
2025年10月31日
-
2025年9月全国消費者物価
政策要因でコアCPI上昇率拡大も物価の上昇基調には弱さが見られる
2025年10月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日

