サマリー
予想されたことではあるが、伊勢志摩サミットに先立って開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議では、世界経済の停滞脱却に向けた明確な政策協調は示されなかった。最近、過度の金融緩和への依存を改め、財政政策の活用を図るべしという考えが主流になりつつあるかに見えるが、各国が自ら財政政策を打つかどうかとなると話は全く変わってくる。金融緩和と財政出動との違いは、為替レートとの関係で、前者は「やったもの勝ち」、後者が「やったもの負け」になりがちなことである。ある国・地域の金融緩和は、通貨の増価を嫌う他国の追随を生みやすい。金融緩和の連鎖(通貨戦争?)を引き起こす上で、明示的な協調などは必要ないということだ。もちろん、自国経済との兼ね合いからこの連鎖に乗れない国もある。例えば現在の米国である。こうした国が通貨高への耐久力を失えば、他国の金融緩和に待ったをかける他はなくなる。米国とすれば、むしろ日欧には財政出動を促し、自国の金利引き上げがもたらすドル高圧力を相殺したいところであろう。一方、財政政策は「やったもの負け」であるが故に、政策協調の下で、皆が一斉にやることが必要なのである。さて、その実現可能性が低下した今、懸念すべきは世界経済の停滞脱却が先延ばしになる可能性が高まったということだけではない。政策協調に向けた音頭をとってきたホスト国日本が、追随者なき財政拡張をひとり行い、円高を惹起し、ひとり負けを演じることである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
中国:大都市の住宅頼みの景気底入れへ
景気は明確な回復感に乏しいL字型の推移へ
2016年05月24日
-
欧州経済見通し BREXITに対する警戒続く
ユーロ圏、英国とも4-6月期は減速が見込まれる
2016年05月24日
-
米国経済見通し 6月利上げへ前向きに
4-6月期の成長率は再加速する可能性が高まっている
2016年05月24日
-
日本経済見通し:海外発の景気下振れリスクは残存
国内要因が景気下支え役となり、日本経済は緩やかに拡大
2016年05月25日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年5月全国消費者物価
米価格の上昇が他の食料品や外食など関連品目の価格にも波及
2025年06月20日
-
2025年5月貿易統計
輸出数量は横ばい圏を維持も、円高効果等で輸出額は8カ月ぶりに減少
2025年06月18日
-
2025年4月機械受注
民需(船電除く)は減少し、コンセンサス通りの結果だった
2025年06月18日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日