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SNA中心で見た社会保障

給付増は高齢化の影響だけではない

2014年04月24日

市川 正樹

サマリー

◆本稿は、SNA統計を中心にして社会保障を分析したものである。SNAを使うメリットは、今や社会保障が財政悪化の最大の要因となっている中、社会保障と財政・経済との関係を整合的に捉えることができることなどである。しかし、現時点では年齢層別のデータが存在しないなどの制約があるため、他の統計データで補う必要がある。


◆具体的な内容としては、財政健全化目標など財政との関係を見た後、年金、医療、介護、といった分野別に、更に詳細な制度などまでブレークダウンして給付や収支の推移などを見ている。特に、高齢者数増加とそれ以外の要因がどの程度効いているのかを分析している。


◆結果については、高齢者数増によらない給付増も大きい。「高齢者数が増加するのでどうしても社会保障支出は増加してしまう」と考えがちだが、実はそれ以外の要因による支出増が、若年者分増も含めかなりある。


◆負担面では、総額の横ばい傾向は、生産年齢人口減少よりも、デフレ下で正規労働者の賃金下落や非正規労働者への転換により雇用者報酬が減少した影響の方が大きい。なお、総額が減少とならなかったのは、保険料引上げなどが行われたためである。デフレから脱却し雇用者報酬が増加すれば、多少は財政健全化に貢献するが、これまでの給付と負担の差の累積は全く解消しない。


◆個別分野を見ると、年金保険は高齢者数増の影響が支配的である。なお、個別世帯では減額でも、高齢者数増によりマクロでは増加するため財政赤字に直結する。また、社会保障の中でも年金の赤字が最大であるが、特に、国民年金保険は給付と負担の差が大きく、突出している上、未納・免除が4分の3を占め、もはや「保険」とは言えない状況にある。


◆医療保険は、制度間財政調整があってもトータルでは大きな赤字である。医療費は高齢者数増に因らない部分も大きい。特に、薬局調剤医療費は、若年者分も含め増大を続けている。


◆介護保険は、当初の制度定着期を経て、最近は、高齢人口増以外の要因である受給率上昇や、一人当たり受給額増の影響が目立つ。介護予防サービスなどの予防の効果は見出しにくい。


◆労災保険は黒字が続いていたが、保険料引下げ等により2009年度からは若干の赤字である。雇用保険は、給付と負担が雇用情勢に応じて変動する。急速な雇用悪化時には給付額は急増するが、欧州のような給付の高止まりが生じないよう注意する必要がある。児童手当・子ども手当は政策によりかなり増額されてきたが、最近は適切な財源がないまま、多額に増額された。


◆SNAでは、生活保護などの社会扶助給付は社会保障ではないが、増大を続けている。生活保護も高齢世帯増に対応しない部分もあり、特に、高齢・母子・障害者・傷病者いずれにも該当しない「その他」世帯、しかも誰も働いている者がいない受給世帯が最近急速に増加している。一方、生活保護以外の地方独自の社会扶助給付もかなりあり増加を続けているが、実態はよくわからない面も多い。社会保障でもなく社会扶助給付でもない、社会保障基金の個別的非市場財・サービスの額もかなりあり、増加傾向にある。


◆以上を踏まえ、高齢者数増以下に給付額を抑えることを大前提としても、まだ財政健全化は到底達成できないため、更に若年層を含め一人当たり受給額の抑制や受給者等の抑制が必要である。


◆具体的には、社会保障各分野の技術的詳細を踏まえたものではなく決して包括的なものではないが、例えば、①高齢者数増以下に給付額を毎年度抑える(大前提)、②特に医療や介護における一人当たり受給の抑制、③一定年齢以上で一定期間受診なしの場合のわずかな保険料引下げ等による不必要な受給の削減、④健康志向を手掛かりとした総合的取組み、⑤高齢になっても働きたい希望を生かした年金受給開始後ろ倒し策の一層の強化、⑥「親の面倒を見る」ことの社会化に伴う相続税の抜本的強化と社会保障受給辞退による軽減の検討、⑦社会扶助給付(特に地方独自分)増への歯止め、⑧社会保障基金が提供する個別的非市場財・サービスのチェック、などが検討の方向の例として考えられる。


◆更に、「女性の活躍」の実現のためには、税制、社会保障、労働法制、保育所・幼稚園サービスの充実など様々な分野の「一体改革」が不可欠である。内閣府に期待される役割も大きい。「高齢者の活躍」も同様に様々な分野の一体的改革が必要である。


◆我が国SNAデータへの要望としては、①できるだけ細かな内訳の公表(特にストック関係)、②年齢層別のデータ整備等を目指す分布統計の研究の進展、③現在公表されているデータに何が含まれ何が含まれないのかの説明の作成と公表、などがある。

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