サマリー
◆ユーロ圏の1-3月期の実質GDP成長率は前期比+0.3%と前期から加速したが、米国による追加関税を見据えた駆け込み需要が押し上げに作用した可能性が高い。1-3月期は米国向け輸出が急増し、輸出全体を押し上げたことに加え、鉱工業生産の押し上げにも寄与したとみられる。4月以降のハードデータはまだ公表されていないが、関税の影響を直接的に受ける鉱工業では景況感に急激な落ち込みは見られておらず、4月以降も税率引き上げに備えた駆け込みの動きが続いている可能性が示唆される。
◆先行きにおける最大の懸念材料である米国との通商交渉に関して、英米間での合意、および米中間での追加関税率引き下げはユーロ圏経済にとっても朗報である。米中間の関税率の大幅な引き下げは、両国経済にプラスに働く(マイナスが抑制される)可能性が高く、両国を重要な輸出先とするユーロ圏経済の下振れリスクは軽減されることになるだろう。
◆もっとも、ユーロ圏経済にとって本丸である米国とEU間の通商交渉については、過度に楽観的になるべきではないだろう。EUの米国に対する貿易黒字が中国に次いで大きいこともあり、トランプ大統領はEUに対する批判的な姿勢を崩していない。対するEUも米国との交渉に失敗した場合に備え、950億ユーロ規模の対抗措置の計画を新たに公表した。EUと米国の間で交渉が決裂し、EUによる対抗措置が実行される可能性は残されている。
◆英国と米国の合意においては、米国の英国からの自動車輸入に対して関税割当制度が設定されたほか、鉄鋼・アルミニウム関税が撤廃された。また、英国政府の発表によれば、米国は通商拡大法232条に基づく今後の関税に際して、英国に優遇措置を設けることで合意したとされている。米国は既に、医薬品、半導体に対し232条に基づく調査を開始しているが、医薬品は英国の対米輸出において自動車に次いで2番目に金額が大きい品目であり、実際に優遇措置が実現すれば英国経済にとっての意味は大きい。
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