サマリー
◆米トランプ政権は4月2日、宣言通り、世界各国に対する相互関税の実施を発表した。その後に上乗せ税率の適用が90日間延期され、発表当初からは税率が引き下げられているものの、追加関税がユーロ圏経済に悪影響を及ぼすという見方に変わりはない。追加関税による米国向け輸出の減少や、企業・家計マインド悪化による投資や消費の停滞がユーロ圏経済の回復を阻害すると見込まれる。
◆中国に対して高い関税率が課されたこともユーロ圏経済にとってのリスクである。中国はユーロ圏にとって重要な輸出先であり、追加関税によって中国経済が減速することになれば、低迷する中国向け輸出はさらに落ち込む可能性がある。また、米国向け輸出の停滞によって行き場を無くした安価な中国製品が欧州市場に流れ込み、欧州域内製造業が打撃を受けるリスクもある。
◆EUは上乗せ関税の適用が延期された90日間を利用して、引き続き米国との交渉を続けていくとみられる。EUは関税率の引き下げを軸に交渉に臨むとみられるが、仮に米国との交渉がまとまらなければ、何らかの報復措置を検討することになるだろう。EUが報復を実施すれば、米国のさらなる関税率の引き上げにつながる恐れがあり、貿易摩擦が激化するリスクには引き続き注意が必要である。
◆米国の追加関税によって不透明感が急速に高まっているのは英国も同様である。英国は米国との通商協定締結を目指して協議を続けているが、スターマー首相は相互関税で課された10%の追加関税を撤回するようトランプ大統領を説得することは難しいと認めており、米国との関係が良好な英国でも米国の関税から逃れるのは困難とみられる。
◆また、英国では、2024年10月の秋季予算案で決定された増税措置の一部が、2025年4月から実施されることも景気回復の重荷になると見込まれる。特に懸念されるのは、国民保険料の雇い主負担の増加による影響であり、企業負担増を理由とした雇用削減、および販売価格への転嫁が個人消費の回復を妨げる可能性がある。
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