欧州経済見通し トラス・ショック再来への警戒感

財政不安による国債安・通貨安懸念/欧州経済中期見通し

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2025年01月23日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

サマリー

◆このところ英国債安とポンド安が同時に進行している背景には、2024年10月に労働党政府が公表した財政案を受けた財政悪化への懸念があるとみられる。財源の裏付けのない経済対策が金利急騰、ポンド下落を招いた2022年9月のトラス・ショックを想起させ、さらなる金融市場の混乱に対する警戒感が高まっている。

◆足元の相場変動のペースはトラス・ショック時に比べて緩やかであり、これはトラス・ショック時ほどには財政懸念が大きくないことを示唆する。しかし、財政不安が払しょくされるためには、景気加速によって歳入の上振れ期待が高まること、もしくは、財政政策の修正が必要とみられる。労働党政権は追加増税を否定しているが、3月26日公表予定の春季予算の内容が注目される。

◆ユーロ圏でも長期金利の上昇は見られるが、ECBがBOEや米国FRBよりも速いペースでの利下げを続けていくと見込まれているため、上昇幅は限定的である。ただし、財政懸念という点では、政治の混乱が続くフランスの動向に引き続き注意が必要である。

◆今回のレポートでは、通常の経済見通しに加えて、ユーロ圏、英国の今後10年間(2025年~2034年)の中期経済見通しを改訂した。ユーロ圏経済の今後10年間の経済成長率は平均で+1.2%と予想する。2024年の欧州議会選挙を経た新体制でも、グリーン・ディールがEUの成長戦略の中心に据えられる見込みである。もっとも、競争力強化との両立への意識が高まっており、企業にも配慮した現実路線への転換が期待される。競争力強化に向けては、大規模投資の必要性に対する認識が強まっているが、財源確保が課題となるだろう。

◆英国の今後10年間の経済成長率は平均+1.3%と予想する。労働党による拡張財政は、短期的には需要面から、中期的には供給面から成長率の押し上げに寄与すると見込まれる。EUとの関係改善に向けた動きも好材料と言えるが、労働党はEU再加盟を否定しており、ブレグジットの影響の見極めは引き続き重要なテーマとなる。

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