サマリー
◆6月15日にジョンソン首相、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、ミシェルEU大統領およびサッソリ欧州議会議長が協定交渉の現状確認のため、ビデオ会議形式で高レベル会合を実施した。英国はEUに対し、夏の終わりまでに交渉を妥結すべきと促したものの、同じくビデオ会議で行われ膠着状態のまま終わった4回目の交渉からの打開はみられなかった。英国、EU双方は6月下旬から7月末にかけて毎週、主要争点に関し集中協議を行うことで合意しており、根本的な意見の不一致を7月末までに解決する必要がある。英国のフロスト交渉官は、バーチャル会議ではこれ以上の進展を望むのは不可能であることを示唆し、対面協議の再開に前向きな姿勢を示している。
◆6月12日、離脱協定を実行に移すための英国とEUとの合同委員会の会合で、ゴーブ内閣担当相は6月30日を期限とする移行期間延長の申請をしないと正式に伝えたことをツイッターにて明らかにしている。移行期間が延長されれば、EU予算への追加拠出が求められることも大きな足枷となっていたといっても過言ではない。コロナ危機により、2021年からの次期中期予算には復興基金の枠組みが含まれるため、当初計画を上回り増強された形の予算編成の上で負担を求められる可能性がある。
◆金融街シティが注目しているのは、通商協定の内容に金融サービスセクターが含まれるかどうか、およびその内容であろう。ただし、バルニエEU首席交渉官は、6月2週目に、サービス(金融パスポート)の移動の自由や、専門資格の相互認証で英国が加盟国としての恩恵を離脱後も維持しようとしているとして批判を展開するなど、現時点では、金融パスポート維持や相互認証の可能性は限りなくゼロといっても過言ではない。仮に最後の砦の同等性認定が認められないと、EU内の金融機関から取引所へのアクセスや、ユーロ建ての金融商品取引など、全て継続不能となり、通商交渉が締結されたとしても、実質的に金融セクターの「合意なき離脱」が起きる可能性がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
-
欧州経済見通し トランプ関税で高まるリスク
最悪シナリオは報復関税による貿易戦争
2025年02月26日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日