サマリー
◆ユーロ圏の景況感指標は、世界経済の減速懸念、株安、テロに対する懸念などを背景に、2016年年初から3カ月連続で悪化した。ただし、原油価格と株価の反発、米中の景況感の持ち直しなどを受けて、ユーロ圏の景況感にも反転の兆しがある。なお、足元の新車販売や小売売上高などの消費関連指標は堅調な伸びを続けており、1-3月期のユーロ圏経済は緩やかながらプラス成長が継続したと推測される。
◆とはいえ、ユーロ圏は「低成長、低インフレ」を克服することはまだできていない上に、6月23日の英国の国民投票はユーロ圏にも厄介な不透明要因である。万一、英国がEU(欧州連合)離脱を選択した場合、EUは経済規模と人口で2番目に大きな加盟国を失い、単一市場の規模縮小、対外的な競争力や魅力度の低下が懸念される。また、EUは最大の貿易相手国であり、直接投資の対象国でもある英国との通商関係を新たに構築しなければならなくなるが、その交渉の行方も混沌としており、ユーロ安や株安の要因となる可能性が高い。国民投票でEU離脱が選択されないまでも、EU残留にも確信が持てない現状では、ユーロ圏でもこの国民投票が投資や雇用の手控えにつながる懸念がある。
◆英国ではEU残留を訴える勢力が巻き返しを図り、EU離脱のデメリットを指摘する声が英中銀(BOE)、英財務省、金融業界からだけでなく、IMF(国際通貨基金)などからも上がっている。英国がEUを離脱した場合には、成長率、雇用、所得などにマイナスの影響が大きいとの試算がさまざま出される中、最近の世論調査ではEU残留派がEU離脱派に対するリードを広げたとの報道もある。ただし、今回の国民投票はEU残留とEU離脱のどちらが英国にとってよりメリットが大きいかという判断軸とは別に、既成の権威に対する反発や不満の表明の場になるのではないかとの懸念がある。EUの官僚制度、英国の既成政党、金融業界などの権威者やエリート層に対する反発が、EU離脱を支持する動機になっていると見受けられるのである。となれば、英国のみならず国際機関が英国のEU離脱に伴う所得水準の低下や雇用喪失を警告しても、その情報発信者を信用ならないと考えている人々には全くアピールせず、むしろ逆効果になってしまう。6月23日の国民投票ではEU残留が選択されると予想するが、予断はできない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
-
企業価値担保権付き融資の引当等の考え方
将来情報・定性情報を適切に債務者区分・格付に反映
2025年09月01日
-
“タリフマン”トランプ大統領は“ピースメーカー”になれるか ~ ノーベル平和賞が欲しいという野望
2025年09月03日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日