サマリー
◆1月22日、欧州中央銀行(ECB)は定例の理事会を開き、国債買い入れ型の量的緩和策(QE)の導入を決定した。買い入れ資産は、国債、政府系機関債、EU機関債が対象とされ、既存のカバードボンドおよび資産担保証券プログラムを含めた総額は1.1兆ユーロに上る見通しである。期間は2016年9月までの約1年半で行うとし、既存プログラムの買い入れ額が継続すれば、国債、政府系機関債、EU機関債の総額は8,140億ユーロ程度となる。
◆予想を上回る買い入れ規模のプログラムが好感されたものの、ユーロ域内での金融市場のインパクトは軽微に留まった。特にギリシャを除いたユーロ域内の長期国債利回りは前日までに低下が進んでいたため、実施前から織り込まれていたアナウンスメント効果は既に達成済みとの印象すら受けた。
◆量的緩和政策とマイナス金利政策の相反する組み合わせが上手く機能するかは、今後の大きな注目点といえる。日本では、超過準備預金に関しても付利が獲得できるため、銀行にとって当座預金を増やす抵抗が無く、量的緩和に応じやすい状況がある。一方、ユーロ圏では貸出先から十分な収益が期待できない状況でコストが高い(マイナス金利の)当座預金や預金ファシリティを増やす動機は乏しく、積極的に量的緩和に応じるかは未知数といえる。
◆QEの発表時間の前後に、(西側の経済制裁対象国であり)ユーロ域外のロシア株式市場が大きく上昇するなど、既に域内での行き先に迷う余剰資金による副作用も発生している。行き場を失った量的緩和の余剰資金がECBの意図とは違う方向に向かうのかは、今後注視する必要があろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日