サマリー
◆1月14日に発表されたOMT(国債買い入れプログラム)に関する欧州司法裁判所(ECJ)の仮判断は、1月22日のECB理事会で協議される国債買い入れ型の量的緩和(以下、QE)の実施を確実のものとした可能性が高い。欧州司法裁の法務官による見解によると、OMTの施行は異例の金融政策であるとしながらも、EU法上の適法性についても条件付きで合法であるとの見解を示した。
◆直近のECB理事のコメントからは、QE実施に対する理事会内での賛成派と反対派の熾烈な駆け引きが展開されている状況が読み取れる。反対派の急先鋒であるドイツ連銀バイトマン総裁は1月15日のスピーチの中で、「国債買取りについての姿勢は従来通り(購入対象を最高格付けの国債に限定するなどの代案を示すも基本的には反対)であり変化はしていない」と、一貫した姿勢を示している。
◆1月22日のECB理事会では、QEの開始の決定だけでなく、①どの国を(Where)、②どれだけ(What amount)、③どのように(How)、④いつまでに(When)という具体策の採択が出てこなければ市場では失望に変わる可能性も高い。1月25日に控えるギリシャの総選挙や、ドイツ連銀への配慮を優先してキプロスで開催される3月5日の次回理事会にプログラムの詳細案の発表がずれ込むこととなると、ドラギ総裁のECB理事会内での手腕が疑問視されてもおかしくはない。
◆今回の理事会で最も大きなリスクは、全会一致を好む理事会において結果的に意見が集約できず“通貨ユーロの規律破綻”を招き各国の関係修復が不可能になることに他ならない。一部の理事の根強い反対意見から生じる1票は、ユーロ域内の分断化を決定づける恐れがあり、単一通貨存続に対する否定的なインパクトの大きさは計り知れないといえるであろう。カウントダウンが始まったECBのQE実施には、世界中の市場関係者が注目していると同時にユーロ存続の将来を占う試金石となることが予想される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
-
企業価値担保権付き融資の引当等の考え方
将来情報・定性情報を適切に債務者区分・格付に反映
2025年09月01日
-
“タリフマン”トランプ大統領は“ピースメーカー”になれるか ~ ノーベル平和賞が欲しいという野望
2025年09月03日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日