サマリー
◆9月22日のドイツ連邦議会選挙まであと2か月を切った。国外からは小康状態にあるユーロ圏危機がどのような形で収束に向かうか、その鍵を握るドイツの今後4年の政治勢力図を決定する選挙として注目されている。ところが、ドイツ国民の関心は対欧州政策にはほとんど向いていない。各党の選挙綱領の重点項目も、財政(税)、エネルギー政策、雇用政策、家族政策、社会保障政策など国内問題が目立つ。
◆与党のキリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU)と自由民主党(FDP)は財政健全化の成果を誇り、次期政権では増税なしで財政黒字を達成すると約束している。ただし、同時に低所得者支援、子育て支援の強化など歳出拡大を伴う公約も少なくなく、財政黒字化と両立しうるか、実現可能性に疑問符がつく。
◆一方、野党第1党の社会民主党(SPD)は、緑の党と組んで政権奪回を目指している。両党は「社会公正の実現」を掲げ、高所得者の所得税率引き上げ、財産税の再導入、金融取引課税などを財源に、低所得者支援、教育・インフラ整備への投資拡大を約束している。しかし、多岐にわたる増税計画には批判が多く、支持率は伸び悩んでいる。
◆世論調査からはCDU/CSUとFDPの連立政権が続投する可能性が高いと判断される。FDPが議席獲得に必要な5%の得票率に届かない場合は、CDU/CSUとSPDの大連立政権誕生の可能性が高いだろう。いずれにせよ、メルケル首相が続投することになり、国内政策に関して大きな変化は予想されない。
◆ドイツで新政権が発足すれば、金融市場でボラティリティが極端に低下した状態は終了すると見込まれる。ただし、新政権発足でドイツがユーロ圏危機対策でこれまでの慎重姿勢を大きく転換させると考えるならば、それは期待外れに終わるだろう。CDU/CSUはユーロ圏維持を明示しているが、他方でユーロ共同債や預金保険制度一元化には反対を表明している。これが変わるとすれば、それは改めて危機に直面し、問題解決を迫られた場合で、その最初の試練となりうるのはギリシャの債務再編問題と予想される。
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