London Economic Eye(Vol.1)
はじめに/欧州債務危機における「時間稼ぎ」戦略の行方/英国、国民投票で単純小選挙区制の維持へ/英国、インフレ目標採用下での金利据え置き判断
2011年06月01日
サマリー
London Economic Eye(Vol.1)は、(1)欧州債務危機における「時間稼ぎ」戦略の行方、(2)英国、国民投票で単純小選挙区制の維持へ、(3)英国 インフレ目標採用下での金利据え置き判断の3本のレポートで構成されている。
試される欧州統合への政治的意思
(1)「欧州債務危機における「時間稼ぎ」戦略の行方」は、債務の償還期限の延長など、いわゆるリプロファイリングを含むギリシャの広義のデフォルトが既定事実化する中で、その対処の行方がEU の政治リーダたちの統合への意思の試金石にもなることを論じている。ギリシャに対する資金支援が決まって1 年余りが経過したが、「流動性供給+緊縮財政策」というパッケージが欧州周辺国の救済策として有効ではないことは既に証明されたに等しい。ギリシャの教訓は、新たに被支援国の仲間入りをしたポルトガルの将来に暗雲を投げかけてもいる。しかし、早期の自力資金調達は事実上不可能という市場の論理に従って、ギリシャの広義のデフォルトを認めることは、実のところ政治的には一番安易な道でもある。一方、追加支援を通じた問題の先送りは、経済的な観点からは正当化が難しいものの、EU、ユーロ圏の統合深化に対する姿勢の強さの現われという側面を持ち得る。共通通貨が生んだ構造矛盾が真に試しているのは、ユーロ圏の経済的頑健性である以上に、政治的な意思のありどころである。
英国は政治制度のモデルなのか?
(2)「英国、国民投票で単純小選挙区制の維持へ」では、5月に行われた選挙制度改変の是非を問う英国の国民投票を扱っている。英国では長く、保守党と労働党の二大政党制が成立している。日本と同じ議院内閣制でありながら、英国における適度な頻度での政権交代は、頻々たる首相の交代による政策一貫性の欠如や国際的な発言力の低下を防ぎ、一方で、慢性的な一党支配による制度疲労を回避させていると評価されている。このような利点は確かにあろうが、二大政党制は少数政党を政策決定過程から排除するという負の側面を抱えてもいる。そして、英国における二大政党制を可能にしてきたのが、単純小選挙区制という選挙制度にあった。そこにメスを入れようとしたのが、これまで第3党に甘んじてきた自由民主党であり、同党の連立政権入りによって、今回の国民投票が実現した。
結果は従前の小選挙区制継続ということになったのだが、議院内閣制のモデルと称される英国の政治制度の欠陥を突いた今回の国民投票は、日本における政治制度のあり方をめぐる議論にも一石を投じることになろう。
「ルールか裁量か」:英国金融政策をめぐって
(3)「英国、インフレ目標採用下での金利据え置き判断」で取り上げているのは英国の金融政策である。ECBが金利を引き上げる中、英国中銀は金利据え置きを続けているが、ここで論じているのは、据え置きの是非、ないしは政策金利の予想等ではない。焦点を当てているのは、明示的なインフレーション・ターゲッティング政策を採用する同国において、実際のインフレ率がターゲットを大幅に上回り続け、なお金利据え置きが継続することの意味である。英国中銀は現在の物価上昇は「一時的なものであり」、遠くない将来のピークアウトが予想されている以上、足元のインフレ率がターゲットを逸脱することにフレームワーク上問題はないという立場をとっている。
しかしインフレーション・ターゲティングのメリットは、「ルールか裁量か」という金融政策のあり方をめぐる長い論争の中で、ルールに基づき中央銀行の裁量・恣意を排除することによって金融政策の透明性と信認を高めることにあったはずである。英国中銀が「インフレは長期化しない」というのはあくまで同中銀の予想に過ぎず、そこに恣意が混入する懸念を完全に排除することは難しい。金利据え置きの是非は措くとして、英国の金融政策は信認低下のリスクを冒していると見ざるを得まい。
London Economic Eye では、欧州・英国に加え新興国を主たる対象とし、鮮度と政策的インプリケーションを重視したレポートを盛り込んでいく方針である。
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