サマリー
◆米国のトランプ大統領の「反脱炭素化政策」は、トランジション(脱炭素への移行)に係る先進国からの資金・技術支援の先細りや、脱炭素化に関連した製品輸出の減少といった形で、アジア新興国経済にとって不安材料となっている。しかし、考え方によっては以下の2点において、この状況からメリットを引き出すことも可能である。
◆① 貿易赤字を「悪」とするトランプ大統領は、米国が貿易赤字を抱える国に対して米国産液化天然ガス(LNG)の購入を要求している。LNGは、石炭火力から再生可能エネルギー(再エネ)への移行期のエネルギー源として、アジア新興国では需要が高まっているが、同地域における埋蔵量は限定的である。仮に、米国から安価なLNGを調達できる環境が整えば、エネルギー安全保障の観点からも同地域にとって追い風となろう。また、これをきっかけに、アジア新興国でLNG関連のインフラ整備が加速する可能性もある。
◆② トランプ大統領が反脱炭素化を掲げても、世界規模では再エネへの動きは止まらないという見方が大勢である。米国企業が、グリーン製品の競争力を維持するためには、それらの生産に不可欠な重要鉱物の安定的な調達が不可欠である。米国は、多くの重要鉱物を中国、カナダ、メキシコ、アジア新興国に依存している。その多くが、トランプ大統領の高関税政策の対象である。また、中国は関税への報復として鉱物資源の輸出規制を強化している。アジア新興国は、米国の相互関税の対象となる場合も、米国への重要鉱物の代替供給地として重宝される可能性があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
尹大統領の罷免決定、不動産問題が選挙のカギに
賃借人保護の不動産政策を支持する「共に民主党」の李在明氏が、大統領選挙で一歩リードか
2025年04月24日
-
トランプ関税のアジア新興国への影響と耐性は?
製品によって異なる影響。対外的な耐性は十分もインドネシアに注意
2025年04月16日
-
インド2025年度予算案:消費回復が民間投資を促す好循環を生むか
企業投資の誘発効果の大きい耐久財セクターへの波及がポイント
2025年02月06日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日