サマリー
◆2023年5月の広島サミットで、G7は、脱炭素分野のサプライチェーンを強靱化することで合意した。電気自動車(EV)の電池に使用する鉱物資源がその一例である。中国による鉱物資源の「囲い込み」に危機感を抱いている先進国が、資金と技術支援を通して、新興国を取り込もうとしている。
◆このような動きは、鉱物資源を有する国が多いASEANにとってもメリットが大きい。ASEANは、ニッケルなどの資源を有効活用して、「EV生産の世界的なハブ」に成長する目標を掲げているが、化石燃料に依存した電源構成がその足かせとなっている。発電部門の脱炭素化には多額の資金を要するが、市場で調達することは難しい。金融市場が小さい国が多いことや、「グリーン」の定義があいまいであることが障害となるためである。そのような中、近年増加しているのが、国際金融機関や日本などのパートナー国によって投入された資金を呼び水に、民間資金を調達する「ブレンド・ファイナンス」である。
◆「デリスキング」が進む中、資源の供給網拡大を急ぐ先進国と、資源を有効活用して脱炭素化と産業の高度化を進める中、資金不足に直面している新興国の利害が一致する局面が増えるだろう。これをきっかけに、上記のような官民一体型の「ブレンド・ファイナンス」のような資金調達方法が増加する可能性が高い。ASEANでは、インドネシアやフィリピンといった鉱物産出国において今後、資金面で脱炭素化と産業の高度化を進めやすい環境に恵まれるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
尹大統領の罷免決定、不動産問題が選挙のカギに
賃借人保護の不動産政策を支持する「共に民主党」の李在明氏が、大統領選挙で一歩リードか
2025年04月24日
-
トランプ関税のアジア新興国への影響と耐性は?
製品によって異なる影響。対外的な耐性は十分もインドネシアに注意
2025年04月16日
-
トランプ2.0、資源面でアジアに恩恵も
米国産LNGがエネルギー移行を促進・重要鉱物の代替供給地になるか
2025年03月26日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日