サマリー
◆5月9日に実施されたフィリピンの大統領選でドゥテルテ氏が勝利した。同氏に今後立ちはだかる課題の一例として、解決には程遠い経済格差・貧困問題とその背後に潜む雇用不足問題が指摘できる。元より、同国では高い出生率を背景に生産年齢人口が急増しており、これに見合うほどの雇用創出は容易ではない。加えて、雇用の創出がサービス産業に集中していることも問題である。中でも、隆盛を誇るBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業の発展は格差縮小・貧困率低下にあまり効果を与えられなかった可能性がある。したがって、今後は幅広い範囲に雇用を行き渡らせるべく、農業・工業を含めた幅広い産業を発展させる必要がある。
◆政治・行政に対する根強い不信感もドゥテルテ政権が取り組むべき喫急の課題の一つであろう。フィリピンでは依然として国会議員等による汚職が絶えない。汚職が度々発生する根源的な原因の一つは同一の家系が議員や地方首長のポストを占める世襲政治の跋扈であろう。フィリピン政府は1987年に改正された現行憲法などを通じて世襲政治に一定の歯止めをかけようとしてきたが、法の抜け穴を掻い潜るケースが続出した。2011年にも世襲制限法案が提出されたものの、審議は停滞し、事実上の廃案に追い込まれた。
◆ドゥテルテ氏が掲げる雇用対策は概ね正しい方向に向いていると評価できる。同氏は工業化を通じた雇用創出を目的にビジネス環境の改善に取り組もうとしている上に、アキノ政権下で制定された人口抑制法を迅速かつ持続的に実行しようとしている。加えて、同氏が常々強調してきた汚職・犯罪対策もビジネス環境の改善に繋がる一要因となり得る。他方、同氏自身がダバオ市で事実上の世襲政治を行っているため、世襲制限法案は新政権下では成立し難い。ただし、世襲政治自体を攻撃しない代わりに汚職の取締りが一層強化された場合、政治・行政の浄化が加速するというプラスの効果が生じ得る。これらの政策が奏功すれば、雇用関連指標の改善、製造業を基軸とした高い経済成長率、政治・行政システムの浄化などが実現し得る。しかし言うまでもなく、実現できるか否かは同氏が国政レベルで政策実行力をどの程度発揮できるかにかかっている。
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