サマリー
◆3月15日、ミャンマーの大統領選挙で元経済官僚であるティン・チョー氏が当選した。同国で文民が大統領の座に就くのは約半世紀振りである。ただし、新政権を事実上仕切るのは、国民民主連盟(NLD)の党首であるアウン・サン・スー・チー氏であろう。同氏はこれまでに「大統領の上に立つ」、「重要な事項は全て私が決める」などと述べるなど、実権を握る意向を幾度も示しており、新政権誕生後もティン・チョー氏を背後でコントロールする公算が大きい。
◆新政権はテイン・セイン現政権が実施した経済政策を基本的に踏襲する見込みである。NLDが昨年11月に行われた総選挙に向けて作成したマニフェストの中で、経済政策に関わる部分を見ると現政権が力を入れてきたメニューが並ぶ。しかし、総選挙から4ヵ月以上経過した足元に至るまで、経済政策に関わるより具体的な情報がほとんど公表されていない点には物足りなさを感じる。こうした状況が長引けば、経済政策の不透明感を嫌悪した外資系企業が投資を手控える等の悪影響が発生しかねない。したがって、新政権はある程度の具体策を盛り込んだ経済政策の方向性を早期に発表する必要があろう。
◆今後の政治動向を占う焦点の一つはNLDが国軍と良好な関係を維持できるかであるものの、憲法改正等の政治的イシューを巡って両者間の対立は深まり得る。この場合、ミャンマー経済のダウンサイドリスクが高まる。具体的には、新政権が策定した経済政策が地方政府レベルで実行されないリスクに加え、可能性は低いものの軍事クーデターが勃発するリスクにも留意すべきである。
◆NLDはこれらのリスクを避けるため、国軍との協調を優先するという選択肢を取ることもできる。しかし、総選挙において、NLDは軍事政権下で敷かれた非民主的な制度からの変革を訴えて勝利した政党である。総選挙当時は民主化を求める国民の受け皿となる政党としてNLD以外の選択肢は無きに等しかった。しかし、今後民主化の進展が遅れれば、同党の支持者は失望してしまい、次回の総選挙ではNLD以外の政党に流れるかもしれない。したがって、新政権は民主化を求めるミャンマー国民とそれに反発する国軍の間に板挟みになりながら、政権運営を進めるという難しい舵取りを迫られている。
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