サマリー
◆エジプト情勢の混乱に収束の糸口が見えない。8月14日、軍事クーデターを起こした暫定政権は、首都カイロで抗議活動を行っていたモルシ前大統領支持者を中心としたムスリム同胞団(イスラム主義勢力)に対し、武力による強制排除を行った。この衝突により、カイロのみならずアレキサンドリアなど地中海沿岸都市でも治安部隊との激しい衝突が繰り広げられ、死者は、現在まで観光客や英国人ジャーナリストを含む1,000人近くに達している。
◆7月に発生した軍事クーデター後、ムスリム同胞団と軍部では(各国の仲介を経て)平和的な解決に向けて交渉が進められていた。しかし、2014年の総選挙前までに一時的にでもモルシ前大統領と憲法の復権を求めるムスリム同胞団の主張に対して、短期間でも復権は認められないとする軍部側との交渉は平行線を辿っていた。
◆エジプトの動乱が長引くにつれ、スエズ運河等の地政学的リスクの高まりから原油価格は高騰している。ロンドン原油先物市場では北海ブレント先物価格が1バレル111ドル近辺を付けた。一方、18日に再開された株式市場では、前回の軍事クーデター近辺に大幅な調整に見舞われた水準まで下落するに至っていない。ムバラク政権退陣後も産業界に大きく影響しなかったことを考慮すると、エジプト市場の企業や投資家は政情不安に耐性が強いともいえよう。
◆アラブの春以降、政権安定にもたついたムスリム同胞団は、国民のためでなく、自身の利益を追求する政権運営に終始した。国民間の合意形成を顧みず自らが思い描くエジプトを形作ろうとしたといえる。今回の軍事クーデターを起こした暫定政権とその支持者たちも、同様の行為を繰り返しているといえるだろう。軍部とイスラム主義勢力との断絶は深く、事態の収束には相当の時間がかかることが予想される。
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