サマリー
2013年3月にミャンマーのヤンゴン市を訪れる機会を得た。
2003年の米国によるミャンマーへの経済制裁措置以降、国際社会から孤立していくミャンマーを支えてきたのは中国である。中国経済が急成長してくると同時に、ミャンマーへの経済的な支援も加速。ミャンマーの対内直接投資(金額ベース)で、群を抜くのが中国資本となった。ヤンゴンの最新のスーパーマーケットの食料品売り場でも、中国語が書かれた商品が並び、中国人のシェフが高級ホテルの厨房で腕を振るっていた。一方で、幹線道路の脇や中小規模の店が立ち並ぶダウンタウンの看板は、韓国や日本のメーカーの宣伝で埋め尽くされていた。一際目を引いたのはサムスンだった。ミャンマーの民主化が加速する中で台頭する韓国勢を象徴するような風景だった。
ミャンマーにおける中国とは、何だったのだろうか?ミャンマーの国営企業では、中国製の機械が稼働し、銀行間決済に利用されるシステムも中国最大のATMメーカーが敷設した。電力不足の解消に向け、発電所建設計画も数多く手掛けた。しかし、中国はエネルギー資源の確保を目的にミャンマーを支援しており、生産性の低い機械を与え、形だけ立派なものを押し付けてきたと評価する人々もいる。国民の生活からは一線を画した部分で醸成された存在感だったが、軍事政権を後押しした=印象が悪いという方程式が成り立っているのかもしれない。
ただ、ここにきて、中国に名誉挽回の機会が訪れる。2013年12月、ミャンマーの首都ネピドーでは東南アジア競技大会(SEA Games 27)が開催される。ミャンマー政府が2012年初頭から約1.2万人もの外国語に堪能な若者に研修を受けさせ、外国選手団や観戦客をもてなす準備をしているビッグイベントである。ここに北京オリンピックや上海万博をサポートしてきた中国の民間企業が支援の手を差し伸べている。中国最大の通信機器・設備メーカーの華為技術がLTEシステムを含めた300万ドル相当の通信機器を援助する(これも含め計5億ドルを寄付)。日本でも有名な銀聯カードも決済サービスを展開・拡大していく方針を固めた。SEA Games27に向け、各国のミャンマー支援合戦が繰り広げられている中、中国の最新技術・サービスがミャンマー国民の心を捉えるか、要注目である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
インド:所得減税・GST改正の効果は?
GST税率引き下げは耐久財消費を喚起。企業投資につながるか注視
2025年11月14日
-
インドネシア:弱含む内需への対応策は?
雇用問題が消費者心理に影響。ヒト・モノへの投資バランス調整を
2025年11月13日
-
なぜベトナムは「不平等協定」を結ぶのか
米国・ベトナムの「ディール」を解明する
2025年08月14日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

