サマリー
◆2012年11月開催のASEAN首脳会合で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)構想の「交渉開始宣言」が行われる見通しとなった。RCEPでは、ASEAN加盟国と日本を含むパートナー6か国がメンバーとなる可能性が高い。底堅い経済成長を遂げるASEANに対する注目度は高まっており、同地域を取り巻く経済連携の締結が急速に進むと見込まれる。
◆地域統合型の経済連携交渉が進む背景にあるのは、東アジア地域に特徴的な産業内分業の深化である。RCEPが締結された場合、日本、ASEANにどのような影響があるのだろうか。貿易結合度を確認すると、ASEAN+6地域の貿易構造は、日本を中心とした緊密な結合から中国中心の結合へと移行している印象を持つ。しかし、高付加価値な中間財を輸出し、他国に組立加工をゆだねるという日本が果たしてきた機能に中国が取って代わったわけではない。日本は、高付加価値の中間財輸出において、現在も競争力を維持している。ただし、対ASEAN、中国向け中間財輸出に関しては、韓国の競争力も看過できない。RCEP交渉が進むにつれ、日本と韓国の競合性は高まると考えられる。
◆中国とASEANを比較したとき、両者とも労働集約型産業を比較優位とし、最終財輸出に競争力を有しているという点で貿易構造が類似している。しかし、ASEAN+6域内の貿易結合度を確認すると、ASEANよりも中国との結合が高い国が多い。今後は、チャイナプラスワンとしてASEANを積極的に生産拠点の選択肢に入れる余地はあると言えよう。RCEPの交渉開始は、日本が今後ASEAN+6域内でどのように比較優位性を維持するのかという点を再度見直すきっかけとなろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
インド:所得減税・GST改正の効果は?
GST税率引き下げは耐久財消費を喚起。企業投資につながるか注視
2025年11月14日
-
インドネシア:弱含む内需への対応策は?
雇用問題が消費者心理に影響。ヒト・モノへの投資バランス調整を
2025年11月13日
-
なぜベトナムは「不平等協定」を結ぶのか
米国・ベトナムの「ディール」を解明する
2025年08月14日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

