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中国社会科学院「保護主義が世界貿易の回復を阻む」

2017年01月17日

薛蕊

蘇慶義

2008年の世界金融危機以降、世界貿易は低迷状態から抜け出せずにいる。とりわけ2012年から世界貿易(財輸出量)の伸びは世界経済成長率を下回る状態が続いている。たとえ経済成長率がすでに危機以前の水準に回復しているとしても、世界貿易の好転は難しいだろう。2016年9月末、世界貿易機関(WTO)は2016年の世界貿易の予想成長率を2.8%から1.7%に下方修正し、2016年は金融危機以来、世界貿易の伸びが最も低い年になると指摘している。さて、世界貿易の回復を阻むものは何であろうか。


通常考えられるマクロ経済的要素は貿易回復の障害にはなり得ない。マクロ経済における価格要因は、価格下落による名目の貿易額の伸びに対する影響を指す。2011年以来、コモディティ価格は下がり続け、貿易額はマイナスの影響を受けている。ここ2年間、ドル実効レートは全体的に上昇傾向にあり、米ドル建ての貿易額にも影響を与えている。だが、価格は名目の貿易額に影響するだけで、実質の貿易量には影響を与えないはずであり、現在、貿易量は低迷している。また、需要要因は経済成長率の低下が招く需要減少が貿易量の低下を引き起こすことを指す。だが、ここ数年の経済成長率はゆっくりと回復しており、2015年の経済成長率もすでに3.1%に達している。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(World Economic Outlook)では、2016年、2017年の経済成長率は3%以上になると予測されている。しかし、それと同時に貿易量は十分な回復の見通しが立っていない。それは、需要要因が貿易低迷をもたらす主因ではないことを裏付けるものと考えられる。その一方、経済成長率と貿易量の伸びはいずれも内生変数であり、外部要因に影響されても、互いが影響するかはわからない。さらに、グローバルな観点から分析してみると、中国経済の成長率低下が世界貿易の足を引っ張っているという考え方にはあまり根拠がない。なぜなら、中国経済は世界経済を構成する一部分に過ぎず、外生変数に属していないからである。


他にも世界貿易の回復を阻害する要因が存在するものの、それらを改善することはなかなか難しい。2009年の貿易が大幅に減少したことをアカデミックな世界では「貿易大崩壊」(the great trade collapse)というが、現在でもその影響は完全には消えていない。この貿易大崩壊の際、財貿易の減少率はサービス貿易の減少率を上回り、さらに財貿易における耐久消費財の減少率は非耐久消費財のそれを上回った。そのため、世界貿易における財とさらにその中の耐久消費財の割合がともに低下したのである。財貿易と耐久消費財貿易の所得弾力性がサービス貿易や非耐久消費財に比べて高いため、世界経済の成長が加速しない限り、貿易量に対する牽引力は弱まっていくことになる。つまり、貿易大崩壊以降の需要関数には構造変化が生じており、しかもその変化を修正することはかなり難しく、長期にわたって徐々に改善していくほかない。その一方、グローバル・バリューチェーンが金融危機でダメージを受けたことは、危機以降の世界貿易低迷のもう一つの要因である。グローバル・バリューチェーンの拡大により、同じ経済成長スピードの下でも貿易拡大効果が強まってきた。世界金融危機によるグローバル・バリューチェーンへの打撃は、貿易量の伸びが経済成長率を下回っている重要な原因である。しかし、バリューチェーンの回復は容易ではなく、経済の安定的で持続的な回復を経て初めて改善することができる。以上を踏まえると、上述した要因が貿易低迷を招いているものの、長期にわたる経済回復のプロセスを経て改善されるほかはなく、短期間に人為的に改善することは難しいだろう。


また保護貿易は、貿易量の回復を阻害する最も重要な要因である。現在、世界貿易量の伸びが世界経済の成長率を下回っており、その結果、世界の貿易総額の対 GDP比は持続的に下がっている。さまざまな国際貿易理論は、貿易総額の対GDP比が外部要因に影響されており、そのうち、最も重要なものが貿易コストだと分析している。貿易コストの上昇は、貿易総額の対GDP比の下降につながる。貿易の持続的低迷は、ここ数年の貿易コストの上昇によるものである。貿易コストは、関税障壁と非関税障壁を含んでいる。WTOの関連規定のもとで、関税障壁はこれ以上増えることがないかも知れないが、非関税障壁は増える恐れがあり、さまざまな保護貿易措置が増える可能性がある。つまり、保護貿易は世界貿易の回復を妨げる最も大きな障害である。


これまでの経験を振り返ると、金融危機発生後、世界各国は往々にして隣国に対して関税障壁を強めるような貿易政策を実施し、多くの保護貿易手段を講じていた。貿易を保護する手段は種々様々であり、従来のアンチダンピング、特殊貿易措置のほか、衛生及び植物検疫措置、技術的貿易障壁などが挙げられる。WTOの統計によると、金融危機以降の各種保護貿易政策は確かに増加傾向にある。英国の経済政策研究センターが発表した「世界貿易モニタリング報告書」によると、2015年に世界全体で行われた保護貿易措置の数は前年比50%も増えたという。国別では、米国は保護貿易政策を最も多く実施している国である。2008年から2016年まで、米国は他国に対して、600余りの保護貿易措置を行っており、平均して4日毎に一つの保護貿易政策が打ち出されているという。それに対して、中国は、世界の保護貿易政策によるダメージを最も多く受けている国であり、金融危機以来の累計はすでに600件余りとなっている。


保護貿易は相手国に損害を与える上に、自国にも損害を与えてしまう、未来志向ではない政策である。世界経済ガバナンスのプラット・フォームも現在、保護貿易に反対するよう力を入れている。2016年7月9日-10日まで、上海で開かれた主要20カ国・地域(G20)貿易閣僚会議は、G20史上初の貿易閣僚声明を発表し、保護貿易に断じて反対すると表明した。しかし、保護貿易に反対する声が大きいにもかかわらず、実際に保護貿易措置を取る機運は弱まる気配がない。とりわけ英国のEU離脱や米国の大統領選挙でのトランプ氏当選によって現れた「アンチ・グローバリズム」の動向を懸念せざるを得ない。トランプ氏が次期大統領として選ばれたときに表した保護貿易主義を掲げる意向は、米国の将来の貿易政策に幾多の不確定要素を加えると考えられる。


保護貿易に反対する声は確かに強いが、拘束力がないというのも現実であり、とりわけ米国のような国に対してはそうである。そのため、保護貿易に最も影響される中国は、世界貿易戦争の悲劇を避けるため、経済グローバル化の旗を掲げ、拘束力のある保護貿易反対の協定、あるいは宣言が打ち出されるように、けん引する役割を果たすことが考えられる。もし中国が「保護貿易反対協定」の交渉を提案すれば、この協定は、貿易分野において中国が初めて提案し、主導するものとなり、今後、世界貿易のガバナンスに参加し、主導するための基礎を作り、豊富な経験を積むことになるだろう。


「保護貿易反対協定」に関する交渉は、トランプ政権発足後の保護貿易主義を抑制することに資すると考えられる。一般的には、米国大統領選挙時、候補者が票を獲得するために貿易自由化に反対する意向を表明することがあるが、グローバル化に反対するトランプ氏の声は従来のどの候補者よりも大きかった。そのため、大統領に就任したトランプ氏が保護貿易主義を掲げる可能性は非常に大きく、とりわけ就任からの2年間はそうであろう。幸いにして、米国国内では、政治界にしても学術界にしても、トランプ氏の行動に疑問や懸念を抱いており、保護貿易政策の実施を支持しないようである。「保護貿易反対協定」に関する交渉は、これらの政治界や学術界の有識者からの支持を得て、米国が交渉に参加することを促す力となるだろう。たとえ米国が交渉に参加しなくても、トランプ氏の行動をある程度抑えるだろう。


最も重要なことは、「保護貿易反対協定」の締結により、世界貿易の回復にとっての最大の障害である保護貿易を徹底的に打ち破り、世界経済と世界貿易に利益をもたらすことである。1930年代の世界不況期に米国が保護貿易主義に傾き、世界経済の回復を妨げた。政治的にはファシズムが台頭し、結局第二次世界大戦の悲劇を引き起こしたのである。戦後、米国は教訓を汲み取り、経済のグローバル化と貿易の自由化をリードし、世界経済と貿易のルール作りの主導者となった。現在、世界は再び保護貿易と経済グローバル化の岐路に直面しているにもかかわらず、米国は逆行する姿勢を示している。成長する新興国として、中国は経済のグローバル化をリードし、より開放的な世界を造る役割を果たしていくことが可能なのである。

(2016年11月発表)


 


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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