中国社会科学院「民間投資による市場参入の制限はできるだけ早く開放すべきである」

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2016年10月28日

  • 費兆奇

今年に入ってから、中国の民間投資の伸び率は急激に下降しており、固定資産投資全体の伸び率との差は拡大が続いている。「貿易黒字の縮小」を受け、中国はこれまでの「投資+輸出」の両輪駆動から、主に投資が経済を引っ張る形の成長へと転換してきている。2010年以来、民間投資が固定資産投資の半分を占めるに至り、2012年からは60%以上となっている。民間投資は国有企業投資と比べると「プロシクリカリティ(景気循環増幅効果)」の特徴を有している。このため、民間投資の変動は固定資産投資全体に対して多大な影響を与えるだけでなく、さらには金融市場運営の方向性をも左右している。


「民間投資の隘路」という問題に直面


民間投資が急速に低下しているのには、主にいくつかの原因がある。一つは、製造業の伸び率が急速に下降していることである。中国の工業製品の出荷価格は引き続き落ち込み、2016年は「生産能力の調整」がさらに進められていることで、製造業投資の伸びは大幅に低下している。問題は製造業分野での民間資本が占める絶対的な割合にある。2016年6月末の民間投資の割合は86.61%にも達しており、これは製造業投資の伸びの大幅な低下に民間投資の影響が決定的であることを意味している。


また、インフラ分野において、民間投資には2016年年初から重大な変化が発生している。年初に伸び率の急激な下降が見られ、2015年末の+28.61%から2016年2月の+10.78%にまで落ち込んでいる。逆に非民間投資(主に国有企業投資。そのうち少量の海外投資と香港・マカオ・台湾への投資を含む)の伸び率は2015年末の+13.04%から2016年3月の+22.71%へ上昇している。その後、民間投資の伸び率は+11.00%付近にとどまり、非民間投資は比較的緩やかな増加傾向を維持し、6月末では+24.00%に至っている。もともと、インフラ分野に占める民間投資の割合は比較的小さい。このため、インフラ投資は今年に入ってから急速に伸びているが、民間投資による貢献は非常に限られている。


次に、内部資金の不足が民間投資の急速な減速の重要な原因となっている。全国的な経済成長の減速によって、利潤を得られる事業が減少し、企業の利益率と投資収益率は落ち込み続け、民間投資の投資能力に弱体化が見られる。中国では、民間企業の外部資金調達における金利(コスト)が高く、投資資金の財源は自己資金が主体となっている。中国の固定資産投資の資金源の中で、自己資金が占める割合は近年60%~70%の間で推移している。だが、2016年初め以降、固定資産投資の資金源である自己資金の伸びが大幅に低下した。2015年12月末の+9.50%から2016年2月には-3.10%へと減少に転じ、その後反転したものの、その力は弱く、2016年6月末時点での累計伸び率はわずかに+1.40%であった。これは民間投資の伸びが急激に落ち込んだ時期と一致する。2016年から固定資産投資の資金源である自己資金の伸びが大きく落ち込んだことで、民間投資の伸びが急激に低下するに至ったのである。


三つ目は、ベースマネーの放出ルートの変化が民間投資にマイナスの影響を与えたことである。ここ数年、外国為替資金残高の伸び低迷に伴い、外貨両替制度を通してベースマネーを放出するルートは次第に歴史の舞台から消えていった。このような背景のもとで、中国人民銀行は主に再貸付などの方法によってマクロの流動性の補充を行っている。これ以前、外国為替資金ルートによる流動性の受益者の多くは民間企業であり、その資金は製造業投資、物流、不動産投資などに向かっていた。しかしながら再貸付等のルートでは、人民銀行の金融機関に対する債権が急速に増加し、人民銀行の金融政策の自主性が高まったものの、民間企業は外国為替資金の減少により流動性の有効な補充を得ることが難しくなった。金融機関、特に預金金融機関は収益とリスクをコントロールし、政府の保証がある国有企業や大企業を優遇しているからである。このほか、インフラ投資あるいは重大プロジェクトの中では、国有企業が通常、主力となっており、このことが多くの信用貸付のリソースを国有企業へ向かわせている。


四つ目は、対外投資の伸びが上昇しており、民間投資の一定の「分流」となっていることである。外国為替資金残高の伸びが落ち込んだ一方の原因には、中国の対外直接投資がここ数年急速に伸びており、国内経済の停滞と人民元の下落予想の影響を受け、多くの企業が外貨により海外で投資を行っていることが挙げられる。中国の非金融機関の対外直接投資の急速な増加は国内の固定資産投資と民間投資に対し、一定の「分流」となってきた。2016年6月末までに、中国の対外直接投資が国内固定資産投資と民間投資に占める割合はそれぞれ2.27%と3.29%に過ぎないが、資本勘定が徐々に開放され、人民元の国際化のプロセスが加速すれば、対外直接投資の比重は急速に高まり、国内投資にとって軽視できない影響をもたらすに違いない。


民間投資による市場参入の制限を開放する


民間投資の低迷を理性的に見極め、金融緩和政策を慎重に運営すべきである。経済が下降している時期は、企業の利益率や投資収益率も低下し、民間企業が景気循環に応じて投資を減らすことは理性的行為である。2016年以来、民間投資の伸びは「プロシクリカリティ」によって大幅に低下し、国有企業投資は反循環的に急速な増加の道を歩んでいる。しかしながら、国有企業投資が再び民間投資を牽引してその方向を変えることができるのか?答えは楽観できないかもしれない。民間投資の主な資金源は自己資金であることに加え、特に経済が落ち込む時期の民間企業の外部資金調達の条件は非常に厳しい。民間企業にとり、サブプライムローン危機時と現在の経済状況には大きな違いがある。サブプライムローン危機では、中国の外国為替資金残高の伸び率はいくらか低下したものの、20%前後の高い割合で変動し、また、固定資産投資の資金源としての自己資金の伸び率も30%付近で推移していた。このため、国有企業投資の牽引により、民間投資は比較的早く以前の水準を回復することができた。しかしここ数年、特に2016年以来、外国為替資金残高の伸び率は0%辺りまで落ち込み、固定資産投資の資金源である自己資金はマイナス成長状態になっている。つまり、民間企業が短期間に国有企業投資と足並みを揃えられるほど充分な資金を有してはおらず、民間投資が反転の動きを見せることはないと言える。


民間投資がハイエンド産業に進出するために、公平な市場環境を整えるべきである。中国のハイエンドサービス業の発展は相対的に停滞している。例えば、第三次産業には多くの生産性の低いサービス業が含まれていることから、その労働生産性はこれまで第二次産業より低く、相対比で70%~90%の間を推移している。このことは、第三次産業の割合が上昇し続けると、全国の労働生産性を確実に低下させることを意味している。このほか、中国の商品貿易は巨額の輸出超過を維持しているが、サービス貿易は大幅な輸入超過であり、しかも2016年からは超過が拡大してきている。これは国内におけるサービス業、特にハイエンドサービス業の需要が有効に満たされていないということであり、現在の消費需要の不足と鮮明な対比を成している。重要なポイントは、民間投資の多くが製造業や生産性の低いサービス業に集中していること、一方で水利、教育、衛生、金融等の分野への民間の「参入条件」が非常に厳しいことにある。このため、民間投資を拡大するためであろうと、経済成長を牽引するためであろうと、できるだけ早く民間投資の市場参入の制限を緩めることが重要なのである。


筆者は上述の問題を解決するには、二つの面から着手すべきであると考えている。一つ目は、サービス業の規制を緩めることである。ここ数年、中国は多くの民間投資を奨励、拡大させる政策や取り組みを打ち出しているが、サービス業の関連分野への民間参入の制限はいまだに有効的な突破を得られていない。これは制度の側面から推進していく必要がある。つまり民間投資による市場への参入を禁止するネガティブリストの作成を急ぐことである。ネガティブリスト対象外の項目については、政府は登録制を実施し、参入時と参入後の監督を強化する。二つ目は、多方面から現行のPPP方式(訳者注:パブリックプライベートパートナーシップ、官民連携)を整備することである。PPP方式の初志は民間資本を引き寄せインフラと社会公共事業の分野に進出させることであったが、実際に運営していく過程で国有企業が主役となってしまった。PPP方式を定着させる主な構想として、PPPを推進する法律の整備を加速する、政策の調整と統一を強化する、財政によるサポートを具体化する、PPP基金や奨励金などの政策を実行する、などがある。


減税によって民間企業の利潤能力を引き上げ、産業の発展を導くことに力を入れていくべきである。財政政策によるサポート力を増大させ、非金融企業に対して大規模な減税を実施することで、一、企業の利潤を増やし、企業の投資能力を向上させる。二、国外からの投資を引き寄せ、対外投資の急激な増加によって国内投資に生じた穴埋めをする。このほか、差別化した税の減免政策を通じて、民間資金の流れを産業発展の方向に合う分野へ導いていく。例えばハイエンド製造業やハイエンドサービス業がそれである。

(2016年8月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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