中国社会科学院「中国の高齢化問題は日本よりも厄介か?」

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2016年06月09日

  • 徐奇淵

4月20日に国家統計局が発表した2015年11月1日時点の人口抽出調査のデータによれば、5年前(2010年11月1日時点)の国勢調査と比べて、中国本土における人口の高齢化率は上昇傾向を示している。0-14歳の人口比率は5年前より0.08%ポイント低下、15-59歳は2.81%ポイント低下し、60歳以上は2.89%ポイント上昇した。


このような背景のもと、生産年齢人口の減少傾向も現れている。2016年1月に統計局が発表したデータでは、2015年末の中国の16歳から59歳までの生産年齢人口は9.11億人で、2014年末より487万人減少した。これで生産年齢人口は4年連続で減少したことになる。前3年の減少幅はそれぞれ、345万人、244万人、371万人であった。


高齢化問題は日本より厄介か?


日本の場合、専業主婦の割合が比較的高かったことから、女性の労働参加率は海外に比して低い水準にあった。だが、日本の人口高齢化の進展や景気低迷という状況によって、多くの日本人女性が労働市場に参加するようになったことは、労働市場を安定させる役割を果たすことになった。


1990年の日本人女性の労働参加率は57.1%であったが、2014年には65.4%と、8.3%ポイント上昇した。過去24年の間で、日本人女性の労働参加率は、1990年の高所得国の平均より明らかに低い水準から、2014年には一気に平均より高い水準となった。アベノミクスの「新・三本の矢」は更なる女性の労働参加率の向上を図ろうとしているが、実際にはその余地はかなり限られていることを意味している。


逆に中国は、女性の労働参加率がすでに高いことから、このような緩和メカニズムとしての効果は乏しい。1990年の中国の女性労働参加率は79.1%であったが、生活水準の向上に伴い、教育を受ける期間が長期化したこと、また、専業主婦が増加したことなどを背景に、2014年の70.4%へ低下し、1990年から8.7%ポイント下降した。この数字は、高所得国の平均水準よりはるかに高い。(ここで筆者は中国の女性に敬意を表したい。)


もし女性の労働参加率という視点からだけ見ると、人口高齢化の流れに対して中国が巻き返す余地は日本よりも小さい。実際、中国は人口の高齢化と女性の労働参加率の更なる低下という二重の衝撃に直面するかもしれない。しかしながら、中国には労働力の貯水池がまだ他に二つあり、もしそれをうまく利用すれば相当程度人口高齢化の衝撃を緩和することができるであろう。


ゾンビ企業を淘汰し、労働市場を再編する


ゾンビ企業のほとんどは生産能力が過剰な業種であり、三つの特徴がある。①借金が多く、負債比率が高い。②収益力が低く、借金を返せない。③規模が大きいため、破産の影響も大きく、とりわけ雇用と銀行の不良債権に与える影響が最も大きい。もしゾンビ企業を救済し続けるのであれば、長期的にはその影響がさらに悪化するだろう。ゾンビ企業は資金を吸い上げるだけでなく、他の市場参加者の資金調達の需要を押しのけてしまう。さらに労働力の最適な配置を阻害している。


労働市場の視点から見ると、社会の安定と金融の安定が保たれる範囲内で、ゾンビ企業を淘汰すれば、大量の労働力が放出される。過剰生産能力を取り除くことは企業部門の再構築だけでなく、労働市場の再構築にとっても重要である。


もちろん、相当数の労働力を生産能力が過剰な業種からその他の不足している業種へ移行することは容易なことではなく、様々な問題に波及する。この過程においては、政府が役割を発揮できることがある。例えば、2016年3月の政府活動報告の中で1,000億元の特別項目資金について触れているが、これはリストラされた労働者の再就職に使用されることになっている。仮に、1人の労働者の1年間の職業訓練費用を5万元とすれば、1,000億元の特別項目費用で200万人の就業技能転換を実現することが可能である。このような支出は2015年に株式市場が混乱した期間に使われた何千億元、何兆元もの救済資金と比べて、決して受け入れられない重い金額ではないと言える。


労働市場のミスマッチを正し、人的資本のボーナスを発現させる


冒頭で労働者の数が急速に減少していると述べたが、同時に他方では中国の労働力の質、つまり人的資本の向上も急速に進んでいる。2010年の国勢調査のデータと4月20日に発表された人口データを比べると、人口10万人に占める大卒学歴人口は8,930人から12,445人へ上昇、高卒学歴人口は14,032人から15,350人へ上昇、中卒・小卒の学歴人口は対応するように低下している。


もし最近増加した高学歴人口にだけ注目すれば、データはさらに特徴ある結果を示している。2014年の大学以上の卒業生は659万人で、過去5年で24%増加、過去10年では176%増加している。同様に、2014年の海外からの帰国留学生数は36.5万人で、過去5年で234%増加し、過去10年では13倍近くも増加しているのである。


しかし、人的資本を現実の生産能力へ転換することには障害が存在しており、新たに増加した人的資本の相当部分は現実の生産能力へと転換する方法がない。人保部(訳者注:人的資本・社会保障部の略)のデータによれば、ここ数年、高卒以下の学歴の労働力の供給はかなり不足しており、2013年には不足割合が20%前後にまで達した。一方、短大・四大卒の学生の求職では供給過剰の状態が続いており、2013年には過剰の割合が13%にまで達している。


かなりの割合の人的資本が現在放置状態にあることは、潜在的にマイナスの影響を作り出しているだけでなく、一連の社会問題をも引き起こしている可能性がある。どうすれば現在の活用されずにいる人的資本という過剰な生産能力を解消することができるのか?それには、サービス業を発展させるのである。現在、中国のサービス業分野の就業人口割合は、先進国に遠く及ばないだけでなく、同等の発展段階にある他国よりもかなり低い。具体的にはどのような分野で不足しているのだろうか?


一つの参考として、米国のサービス業就業分布を比較対象として選択し、両国のサービス業の就業者数を13分野の分布割合(2011年のデータ)で比較したところ、次の分野で中国の就業者比率は米国より明らかに少ないことが判明した。


(1)衛生・社会保険・社会福祉、(2)水利・環境・公共施設管理、(3)科学研究・技術サービス・地質探査、(4)金融、(5)教育、である。この5つの分野の割合はそれぞれ米国より13.4%ポイント、5.9%ポイント、5.5%ポイント、2.7%ポイント、1.2%ポイント低くなっている。この比較は、図らずも多くの人の実感と一致しているかもしれない。しかも中国のサービス業の就業者の割合も米国よりはるかに低く、もしこの点を考慮すれば、上述の分野の就業者不足の程度はもっと厳しい可能性がある。


サービス業の発展の遅れは多くの問題で難しい重要なポイントとなっている。そのため、市場への参入障壁を緩和し、サービス業の発展を推進することは、新たな投資対象を作り出し、短期のマクロ経済を安定させるのに有利である。それと同時に、大学生の就業改善にも有利であり、医療、金融、教育、技術サービス、水利、環境保護、地質探査、公共施設管理などの発展を推進することにもなる。そして、これらはまさに「不足を補う」重点分野なのである。

(2016年4月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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