中国社会科学院「世界経済の四つの特徴と中国経済に与える衝撃」

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2015年12月21日

  • 世界経済・政治研究所 張明

現在の世界経済の主な特徴は、「停滞」、「分化」、「不安定」、「多元化」という四つのキーワードで概括できる。


「停滞」とは、世界金融危機の発生からすでに6~7年経過したものの、世界経済は依然として成長力に乏しいことを指す。2008年に世界金融危機が発生するまでの5年間の世界経済の年平均成長率は約5%であったが、IMF(国際通貨基金)の最新の予測によると、2015年の世界経済の成長率はわずか3.1%である。「長期停滞」(Persistent Stagnation)のリスクが、明確に発現している。「長期停滞」とは、世界全体の貯蓄が投資をはるかに上回ることを指し、実質金利がマイナスとなる水準にまで下がって、はじめて世界の貯蓄と投資の均衡が実現できるという状態である。しかしながら、世界全体のインフレ率は低く、名目金利はゼロという下限が目前であり、実質金利は下げられないことから、世界の投資の水準が完全雇用の投資の水準より低い状態が続き、最終的に世界経済を長期に低迷させる可能性がある。


「分化」とは、現在の先進国であれ、新興国であれ、いずれも経済成長の好不調が国によって異なる状態が存在していることを指す。先進国では、米国経済は回復して比較的良い状態にあるが、ユーロ圏と日本の経済回復にはそれぞれ問題がある。新興国では、インドとインドネシアは成長しているものの、ブラジルやロシアなど資源輸出国の状況はあまり良くない。


「不安定」とは、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げの時期とペースに関する不確実性が、将来長期にわたって世界の金融市場に衝撃をもたらすことを指している。とりわけ、FRBが今後行う利上げ曲線が険しいものであれば、新興国は継続的な資本流出に伴い自国通貨価値が下落し、コモディティ(原油・鉄鉱石・非鉄金属・農産物など)価格の低下も相まって、国によっては金融危機が発生する等の問題が出てくるかもしれない。


「多元化」とは、WTO(世界貿易機関)等の世界の貿易・投資ルールの他に、現在、関係国が積極的に地域別の貿易・投資体制を構築していることを指し、これらは新たな競争を作り出し、国際的な貿易・投資の自由化にとって試練となる可能性がある。たとえば、米国は現在、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)、TiSA(新サービス貿易協定)を代表とする新しい貿易・投資ルールを構築しているが、中国も積極的にRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を推し進め、「一帯一路」構想を提唱すること等を通じてこれに対応している。このように地域的な貿易・投資体制構築により競争が激化することは、今後の国際的な貿易・投資の場における衝突の可能性を顕著に高めている。


以上の世界経済の特徴により、現在中国が直面している外部要因によるリスクはチャンスより大きいものとなっている。筆者が、中国経済が直面している主要な外部リスクを重要性に照らして高いものから低いものへと並び替えたところ、以下のとおりである。


①現在の中国経済は短期資本の流出が継続するリスクに直面しており、将来、資本項目の自由化を加速させれば、資本流出の規模が更に拡大し、中国の経済成長と金融の安定に対し衝撃をもたらす可能性がある。短期資本の流出が継続すれば、中国経済には次のような影響が生じる。一、資本項目のマイナス(流出超)が経常収支のプラス(流入超)を超えて、中国の外貨準備の減少をもたらす。これにより、中央銀行が過去において外国為替資金残高(訳者註:中国では、国内金融機関が保有する外貨を中国人民銀行(中央銀行)が購入(見合いの人民元を支払う)することによって、ベースマネーが拡大してきた。外国為替資金残高とは、上記のような構造下で、中国人民銀行が外貨購入のために支払った人民元残高を指す。)を通じてベースマネーを放出してきた方法は改められることになろう。また、人民元は外国為替市場で下落圧力に直面するかもしれない。二、短期資本の流出は人民元下落と相互に強く連動しており、「人民元下落→資本流出→さらなる下落→さらなる資本流出」という悪循環を形成する。三、継続する資本の流出は国内の流動性の低下を招くことから、中央銀行が預金準備率の引き下げを通して流動性を補う可能性がある。


②人民元為替相場の形成システムに関する改革が進まず、市場では人民元安の継続が予想されている。このことは貴重な外貨準備が流失するだけでなく、更に規模の大きい短期資本の流出を招く可能性がある。これまで、中国の中央銀行はオンショア市場とオフショア市場における大規模な干渉という方法で人民元の対米ドルレートを押し上げてきた。今ではオフショア市場の人民元がオンショア市場よりも高くなるという逆転現象が起こっている。もし市場の人民元安の予想が消えず、中央銀行が相場と逆行した干渉を続けることが難しいと市場が意識すれば、短期資本流出の局面が根本的に変化することはありえないだろう。


③世界経済の成長が低迷し、「長期停滞」のリスクがはっきりと現れることは、中国経済の成長にとって外需が楽観できず、今後輸出が長く低迷することを意味している。2015年の10ヵ月間のうち、中国の輸出は前年同期比で8ヵ月がマイナス成長であった。これは2009年のサブプライムローン問題が発生したあと以外には見られなかったことである。輸出が低迷している原因で最も重要なのは、世界経済の成長が緩慢であるということである。ほかに、過去二年間で人民元は米ドルとともに世界の他の通貨に対して急速に上昇したことも輸出に影響した重要な原因である。


④コモディティ価格の継続的な下落に加え、中国経済がデフレ圧力に直面したことによって、「(過剰)債務→デフレ」という悪循環の脅威が増加した。2014年10月までの間に、中国はすでに44ヶ月連続でPPI(生産者物価指数)が前年同期比でマイナスとなっている。PPIがマイナスで推移することによって中国企業の実際の資金調達コストは顕著に上昇した。中国企業の負債のGDPに対する割合はすでに130%以上であることを考えると、内外需が縮小する背景のもとで、デレバレッジの段階に入ることは必然である。PPIのマイナス成長が続けば「(過剰)債務→デフレ」の悪循環が発生し、甚だしい場合には銀行業のシステミックリスクが顕在化する可能性がある


⑤世界で貿易・投資の場における衝突が発生する確率が上昇していることは、中国のクロスボーダーの貿易・投資の成長に影響を与える可能性がある。国際的な経験によれば、世界経済の成長が低迷するほど、世界で「貿易戦争」や「通貨戦争」、「投資の衝突」が発生する確率が高くなる。世界の貿易・投資大国として、中国のクロスボーダーの貿易・投資はマイナスの衝撃を受けることが考えられる。

(2015年11月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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