中国社会科学院「上場企業の企業価値を向上させ、株式市場の繁栄を守る」

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2015年03月18日

  • 張躍文

最近、中国の株式市場では株価の急上昇及び大幅な変動が観察されている。中国の上場企業の企業価値が全体的に低いことに鑑みると、業績の改善が企業の投資価値を押し上げたというのは材料としては弱い。そのため、一部の企業の株価は今回の急上昇によってファンダメンタルズから大きく乖離した状態だと思われる。そこで、株式市場の健全な繁栄を促進するための根本的な対策として、上場企業の価値を適切に高めるとともに、基本的な制度をしっかりと構築し、情報の透明性を高め、市場の機能不全を防止し、投資家の株価変動に対する期待を安定させるべきである。

上場企業の企業価値は全体的にまだ「合格」点ではない

好調な市場環境が投資意欲を刺激したことで、株式市場の出来高はうなぎのぼりである。中でもA株市場は2014年12月の出来高が1.6兆株、売買代金は18兆元となり、上海や深圳の株式市場が始まって以来の新記録となった。一方で、株価上昇と同時に、変動幅が拡大している点も注目しなければならない。例えば、同時期の上海証券取引所の総合指数の変動幅は55.6%、深圳証券取引所の総合指数の変動幅は50.4%に達している。株価の急上昇と大幅変動が表しているのは、中国経済のニューノーマル(新常態)に対する投資家の長期的な信頼と上場企業の企業価値に対する憂慮が混在していることである。株式市場の健全な繁栄を促進する根本的な対策は、上場企業の企業価値を適切に向上させることである。


中国のA株市場上場企業の価値を正確に評価するため、我々は株主利益の最大化を指針として、企業の価値創造能力、価値管理能力、価値分配能力といった三つの面から総合的な評価を行った。中でも、企業が株主のために新たな価値を創造する価値創造能力は核心である。価値管理能力は、企業が内在する価値と市場での価値を管理する能力である。価値分配能力は、企業が株主全体の意向に基づき、内部留保を公平に分配する能力である。我々は調査可能な9分野の計51項目の基礎指標を利用して、上場企業が持つこれら3能力の評価を行った。なお、価値創造能力に対応する基礎指標はコーポレートガバナンス、財務状況、イノベーション能力など計21項目、価値管理能力に対応する基礎指標は内部統制、情報開示、株価維持など計17項目、価値分配能力に対応する基礎指標は投資家保護、配当政策、企業の社会的責任など計13項目である。


上記の評価システムのもと、我々は既存の上場企業データを利用し、A株市場に上場する非金融企業2,422社に対して100点満点による評価を行った。全上場企業の平均得点は58.79点で、合格とは言い難い結果であった。最高得点は82.28点で、最低得点は33.30点である。三つの能力については、価値創造能力の平均は54.59点、価値管理能力の平均は76.94点、価値分配能力の平均は49.05点となっている。価値創造能力の評価は全体的に低く、中でもコーポレートガバナンスは財務状況やイノベーション能力と比べて、問題が際立っている。価値分配能力では、配当政策と企業の社会的責任について問題が多い。価値管理能力の得点は他の二つに比べて明らかに良い結果となった。


株式市場別に見ると、「創業板(中国版ナスダック)」の上場企業の平均得点が最も高く、62.82点であった。「中小板(中小企業向けの市場)」は61.51点、メインボードは56.36点であった。創業板の価値創造能力は高く、平均得点が中小板の55.77点、メインボードの51.07点を上回る61.87点であった。これはある程度「創業板」への上場企業が高付加価値の企業であることを証明している。地域別に見ると、地域ごとの平均は57.17点であった。東部地区(58.56点)と中部地区(57.42点)の平均点は全国平均より高い一方で、西部地区は55.72点で全国平均より低い。省・直轄市の中では、北京、河南、広東の3省(市)の企業が上位3位までを占め、甘粛、青海、寧夏の順位は低かった。業種別に見ると、情報通信、ソフトウェア・情報技術サービス業、コンピュータ、通信、その他電子設備製造業、医薬製造業が上位に並び、交通運輸・倉庫・郵便、卸売・小売、鉱業の順位は低くなっている。


コーポレートガバナンスは、上場企業の価値に影響する重要な要素の一つである。これに関する問題は企業の大株主及び経営層と中小の株主間の利益の不一致から衝突が生じることである。我々が把握しているデータの中で、900社近い上場企業の取締役会のメンバーと、1,500社を超える企業の監査役会のメンバーは自社の株式を所有していない。これによって、取締役と監査役が株主の利益の最大化という目標に向けて努力するインセンティブが不足している可能性がある。このほか、一部の上場企業の意思決定には、大株主あるいは実質的な支配者からの「鶴の一声」が影響する可能性が存在することから、中小の株主には意思決定への関与や発言権が十分なく、株主総会へ積極的に参加する意欲が損なわれてしまっている。2014年は780社あまりで、年度株主総会の出席率が0.1%(出席した株主数の全株主数に占める割合)に満たず、うち450社あまりの出席者数は5人以下であった。年度株主総会は中小の株主が企業の意思決定に関与できる重要な場である。多くの株主が株主総会に参加することを放棄した場合、意思決定に関与する人数が過少となり、株主総会における意思決定と議事進行に対するチェック機能は大きく損なわれるため、企業の戦略決定に中小の株主の意見を反映させることは難しくなる。


我々が13項目の財務指標を用いて評価した企業の財務状況を見てみると、総合得点は僅か59.2点であった。うち収益力がやや高く(62.6点)、返済能力、運営能力、成長能力はやや劣っている。イノベーション能力は53.8点と低かった。イノベーションが経済成長を牽引するという新たな経済情勢のもとで、企業におけるイノベーション能力の低さは経済成長を推し進める能力全体に対する著しい懸念をもたらす。こうした状況は国のイノベーション戦略を実施する上で不利となる。財務状況が悪いこととイノベーション能力が低いことは、企業のコーポレートガバナンスが整備されていないことと直接関係する。コーポレートガバナンスの巧拙が財務状況に与える直接的な影響はすでに多くの理論と実務により証明されている。


現金配当は企業が投資家に利益を還元する重要な手段であり、我々の評価システムにおいて、配当政策は上場企業の価値分配能力の重要な項目である。監督部門の要求により、大多数の上場企業は年度の現金配当計画や無配当の原因を説明することはできる。しかし、約2,000社の企業の規定には、株主へ利益を還元するための詳細な計画や明確な現金配当政策が入っていない。企業の監督・管理に関する規制を段階的に整備していくことで、この状況は随分変容するだろう。

監督部門は上場企業の企業価値を高める主力である

上場企業の企業価値及び上記で議論した三つの能力を評価することを通じて考えられることは、監督部門が現在も企業の価値を向上させる主体だという点である。研究によれば、監督部門が明確に要求する指標がある情報開示、内部統制、投資家保護といった項目では企業の得点が高くなる。一方、明確な監督・管理上の規定がない指標、例えばコーポレートガバナンス、配当政策、企業の社会的責任については多くの企業の対応が不十分である。


上述の問題が現れる原因は三つあると考えられる。一つ目は、中国の株式市場はまだ発展の初期段階にあるため、企業の収益力など財務指標に対する関心ばかりが高く、コーポレートガバナンスや配当政策や社会的責任などといった内部統制システムの問題が持つ重要性に対し、認識が全面的かつ深刻に欠如していることである。


二つ目は、現在の企業に対する監督・管理のレベルが依然として低いことである。監督の対象は、一部の定量情報や容易に判明する定性情報にとどまり、一見わかりにくい定性情報から生じる内部統制システムに関わる問題に対しては、十分な調査・対応を実施できていない。


三つ目は、社会的な信頼に足る独立した第三者評価機関が欠如していることである。中国の株式市場は歴史が浅く、監督・管理規制が弱いことから、企業価値の評価と株価形成との関係が先進国の株式市場と全く異なり、市場が乱高下する主な原因となっている。外部材料の好転で企業の価値創造能力がその影響によって向上するような状況では、内部統制システムと外部の監督の影響を主に受ける価値管理能力と価値分配能力は株価を長期間下支えする要因とはなり得ない。しかもコーポレートガバナンスに不備があった場合、短期的な外部の好材料は長期の価値創造能力とは無関係であり、当期の株価に反映されるだけにすぎない。このため、長期的にバランスのとれた株価形成を実現させる効果は限られている。

五つの取り組みによって上場企業の企業価値を向上させる

中国株式市場において長期の安定した繁栄を促し、継続して上場企業の企業価値を向上させるため、以下のいくつかの面で相応の政策を採ることを提案する。

  1. 上場企業による取締役や監査役の自社株取得を奨励する。上場企業、特に国有企業の上場持株会社に対しては、従業員の自社株取得制度を推進するほか、取締役や監査役に対する自社株あるいはストック・オプションの割当てに関する制度づくりを奨励する。さらに全体の株主の利益に適った役員報酬プランを総合的に定め、役員が積極的に企業の意思決定と監督権の行使に参加するよう促す。
  2. 上場企業における株主総会の機能を充実させ、強化する。一部企業に見られる形式的かつ「鶴の一声」で意思決定されるような、外部株主が積極的に参加しない株主総会に対しては、株主とのコミュニケーションや議事の進め方を工夫すべきである。総会中に専門の議事グループを開設して、大株主や経営層が注目している問題について深い議論と質疑応答を行い、株主間や株主と経営層の間の相互理解を深める。また、中小の株主の経営参加権を強めるために、株主全体の利益に関わる重大な事項については、累積投票制、あるいは株主種別による単独採決の方式で審議を進めるといった方策である。
  3. 上場企業に対して株主への利益還元計画を整備させる。監督部門は上場企業が進める現金配当への具体的な管理規制を打ち出した。この規制を確実に遂行するため、企業は内部統制システム上において株主への利益還元を真に重視しなければならない。監督部門が上場企業の現金配当政策に対して監督・検査を行う際には、関連政策と企業の利潤及び資金の使用計画を考慮する必要がある。
  4. 積極的で責任を持った模範となる上場企業を育成する。経営管理能力があり、品行方正で責任を担うことができる経営者がいる企業を集中して選択し、企業が社会的責任を果たす上で模範となる企業を育成する。他の上場企業が模範企業に習い、外部の社会環境や自然環境と適切に接し、共に発展することを奨励する。
  5. 上場企業の自発的な情報開示を増やす。上場企業の情報の透明性を高めることで、企業を深く理解できる投資家を増やし、さらに株式市場が企業を正確に評価するように促す。まず国有企業の上場持株会社の中で試験的に情報開示する内容や開示する頻度を増やす。特に企業の内部統制システムや重要な人事異動などに関連する定性情報を開示する量を増やし、監督部門が情報開示のコスト引き下げに協力し、企業が自発的に情報開示を行うインセンティブを高める措置を取り入れるべきである。

(2015年1月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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