中国社会科学院「世界経済は本格的な調整とリバランスの「ニューノーマル(新常態)」に入った」

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2015年02月16日

  • 李揚

「ニューノーマル(新常態)」とは歴史を貫く戦略概念である。


ニューノーマル(新常態)に入る以前、世界は国際経済学界が唱える「超安定化(グレート・モデレーション)」と称されるオールドノーマル(旧常態)の段階を経験してきた。それは人々にとって忘れ難い希少な繁栄の時代であった。1980年代中頃から、2000年代終わりの世界金融危機が発生するまでの20年余りにおいても、多くの規模の異なる金融危機(1980年代の中南米の累積債務危機、1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア財政危機)が発生し、米国でも1990年代末に不動産価格の急落、2000年代初めにはITバブルの崩壊が発生したが、全体的にこの時期は、世界経済の発展において例の少ない「素晴らしい時代」であったと言える。「超安定化期」の世界経済発展の基本的な特徴は、高い経済成長率、低いインフレ率、低い失業率、振幅が小さい景気循環、であった。「超安定化」は世界の科学技術の進歩、政策運営体制やシステムの変革、グローバル化による経済発展の深化の総合的な産物である。


2007年は「超安定化」から重大危機へと転換した重要な年であった。「超安定化」から重大危機への転換により、世界経済は長期の構造調整を主な内容とするニューノーマル(新常態)へ移ったが、実際には、「超安定化」の繁栄の裏で生じた様々な矛盾が①発生→②蓄積→③深刻化→④蔓延→⑤爆発、という過程を辿ったにすぎない。「超安定化」を特徴とするオールドノーマル(旧常態)が終わり、世界経済は高度な調整とリバランスというニューノーマル(新常態)に入った。これは、中国にとっても例外ではない。


ニューノーマル(新常態)は新たな挑戦をもたらした。それは、国民経済の中で長期間深く隠されてきた矛盾を露呈するとともに、新たな矛盾も引き起こしている。これらの矛盾は主に五つの面に表れている。


一つ目は、経済発展が「投資・成長・過剰」のパラドックスに陥っていることである。我々の成長は極端に投資に依存しており、投資がまさに生産能力の過剰を作り出している。ニューノーマル(新常態)のもとで経済の安定成長のカギとなるのは、改革の精神をもって投資メカニズムの働く環境の整備を行い、何をどのように誰が投資を行うのかといった問題をしっかり判断することである。


二つ目は、レバレッジ比率の急上昇である。レバレッジ比率の上昇は金融システムにおけるシステミック・リスクとなる。中国の地方政府債務には返済能力の欠如と流動性の不足という二つの難題が存在している。債務問題への対応について、短期的な目標としては債務状態の悪化を防止することであり、長期的な目標は合理的で持続可能な地方政府による資金調達メカニズムを構築することである。


三つ目は、都市化の転換である。ニューノーマル(新常態)のもとで都市化を推進するには、「都会の住民」の立場で計画された都市化の偏りを変えなければならない。「開発区化」傾向を転換し、「市場を失う」都市化の弊害を克服しなければならない。土地利用の効率を高めるという基本的な立場を確立し、長期の持続可能な発展にとってより重要な産業の集積、人的資源の蓄積、知識のスピルオーバーなどといった供給に関わる要素の結合を重視し、都会と農村の一体化を必ず最終目標としなければならない。


四つ目は、不動産市場の相場が逆回転したことである。今回の不動産価格の下落の要因は政策面によるものではなく、都市の住宅市場における需給構造の大幅な変化によるものである。短期的な対策としては、数えきれないほどある不動産投資規制を整理することに尽力し、適当でないまたは矛盾したものを撤廃し、市場本来の状態を取り戻すことである。長期的な対策としては、不動産市場の「トップダウン設計」を早急に進めるべきである。特に解決しなければならないのは、住民の「マイホーム」戦略における、賃借料と販売価格の比率、住宅と土地の関係、不動産市場と都市化の関係、不動産市場の開発主体、政府の不動産市場における立場と役割、不動産金融体系、財政政策と税務政策による不動産市場への誘導と規格化に関する問題などである。


五つ目は、金融の混乱現象の発生である。中国では通貨供給量の増加と利子率の上昇が同時に現れ、混乱した状態にある。金融の混乱を処理するには政策運営メカニズムの改革を実行しなければならない。主な目標は三つある。①外貨準備の増減により中国の金融政策の独立性が制限されるという苦境から完全に抜け出すために、現行の外貨準備管理制度を改革する。②多くの金融規制機関による分業管理方式を改革して、規制逃れを取り除き、なおかつ次々と現れる業際的な金融業務をできるだけカバーする。③繁雑で時代遅れとなっている多くの「政策による制約」を廃し、市場本来の状態を取り戻す。


ニューノーマル(新常態)は革命的転換をはらんでおり、世界的にはサプライチェーンの再編、経済構造の調整、統治体制の再構築、大国関係の再形成を意味している。国内においては、中国経済の「困難からの再生」を意味している。この段階を通過すれば、中国経済は根本から投資や輸出を原動力とする成長方式から抜け出し、質と利益をともなった持続可能な発展を追求する道を歩み、中所得国の罠を乗り越えることができるのである。


世界に目を向けると、すでに「改革競争期」に入っている。改革の緊迫性や困難や多様化した内容に対する認識が最も深く、対策が最も万全で、決意が最も固く、効果が最もはっきり現れる国家が今後の競争の中で主導権を握るであろう。中国共産党第18期中央委員会第三回、第四回全体会議で採択した改革を全面的に実行し深化させ、法に基づいて国を治めるという決定は、まさに国民を率いて新たな改革を進め、中国の夢を実現するための成熟した綱領なのである。

(2015年1月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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