中国社会科学院「信用リスクの上昇を防ぐには利下げにとどまるべきではない」

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2014年12月24日

  • 曾剛

経済成長の鈍化や構造調整の継続などの要因により、中国の一部の業界や一部の地域の信用リスクが上昇し続けている。11月21日、中国人民銀行(中央銀行)が2012年以来の貸出基準金利の引き下げを行ったことは、すでに金融政策によって金融リスクの上昇を防止するための調整を始めたことを反映している。


実際の信用リスクは上昇している


中国銀行業監督管理委員会が最近発表したデータによると、2014年第3四半期末現在の、商業銀行の不良債権残高は7,669億元であり、前年末より1,749億元増加している。不良債権比率は1.16%で、前年末より0.17%ポイント上昇している。2014年第3四半期末の商業銀行の「正常債権」の残高は63.3兆元であり、全体の96.05%、「関注債権」の残高は1.8兆元で2.79%を占めている。(訳者注:人民銀行の債権5級分類法は、リスクの状態によって債権を5段階に分類している。正常債権、関注債権、次級債権、可疑債権、損失債権のうち、正常債権は回収に問題がない債権、関注債権は返済能力はあるもののいくらか懸念要素がある債権、他3つは不良債権とされる。)


上述のデータだけを見ると、銀行業の信用リスクは特に心配する必要はないようである。1.16%の不良債権比率は過去の水準や他国の水準と比べても、相当穏やかな水準であると言える。だが、構造や動態上の分析を行うと、状況はそれほど楽観的ではない。


まず、不良債権のデータ自体が低く見積もられている可能性がある。監督当局が厳しく銀行経営のリスクコントロールをし、経営に対する業績評価と資産内容とが強く関連しているという条件のもと、銀行には資産内容を粉飾する一定の動機がある。債権5級分類法に基づく分類の基準に曖昧な部分があることから、実際にはすでにリスクの高い問題債権(例えば返済期限を90日以上過ぎているもの)が不良債権に算入されておらず、一時的に「関注債権」へ分類されているケースもある。2014年に入ってから、「関注債権」の割合は第1四半期の2.5%から第3四半期の2.79%に上昇した。このほか、実際に返済期日を延ばすなどの操作により、本来発生するはずの不良債権の表面化を遅らせ、一時的な隠蔽を行っている。さらに指摘しなければならないのは、中国銀行業監督管理委員会が発表した統計データは商業銀行についてのみであり、2,000超の信用組合が含まれていないことである。一般的に信用組合の資産内容は商業銀行より低いはずである。以上の要素を総合して推測すると、現在の不良債権比率のデータは過小評価されていると考えられるのである。


次に、一部の地域と業界の信用リスクが突出していることである。依然、全体の信用リスクはコントロール可能な状況だが、一部の地域で企業の倒産や経営者の夜逃げが発生している。特に小型・零細企業向けでは、銀行が「聯保」貸付制度(訳者注:いくつかの小企業が自発的に借入を相互に保証するグループを作り、銀行がその中の企業に対し貸付けを行う制度)を多く利用したことから、一つの企業が破綻した場合、連帯責任によってマイナスの効果が生じやすく、信用リスクの拡散と上昇を招いている。現在は、浮き沈みの激しい業界や、生産過剰な業界、小型・零細企業の信用リスクに特に警戒する必要がある。さらに心配されるのは、信用コストが上昇するにつれ、一部地域の銀行と企業の取引が困難化し、「資金調達難、資金調達コスト高」という問題がますます深刻になっており、根本的な解決方法をすぐには見出せなくなっている。


第三に、信用リスクの上昇が加速する兆しがある。2011年9月末から現在まで、銀行業の不良債権比率と不良債権残高は12四半期連続で上昇し続けており、不良債権比率は0.9%から1.16%に上昇、不良債権残高は4,078億元から7,669億元に増加している。増加率を見ると、不良債権残高の前年同期比の増加はこの3年は基本的に15%以上を維持し、2013年第3四半期以降は20%を超え、その後さらに上昇して、2014年の第3四半期は36%に達している。前期比の増加を見ても2013年の第3四半期以降急速に上昇しており、4%前後から10%以上になっている。2014年に入ってから、銀行業界は不良債権の処理に力を入れており(不完全な統計ではあるが、上半期に16の上場銀行が約709.93億元の償却を行っている)、処理された不良債権を計算に加えれば、増加率はさらに増すであろう。


全体的に見て、銀行業全体の信用リスクはまだ受け入れられる範囲にある。しかしながら、経済構造調整が当分終わらないことから、不良債権の増加する勢いを短期間で変えるのは難しい。今後一、二年のうちは、銀行業は金利の市場化と不良債権による損失との二重のダメージを受け続け、銀行経営に対するプレッシャーと挑戦は日々増え続けるであろう。


経済政策による景気の下支えとリスク負担の分担が待たれる


現在の信用リスク上昇の主な原因は実体経済の構造調整にあると考えると、一定の構造的な要因があり、通常の経済システムに頼るだけでは有効に解決することはできず、適切な政策によるサポートが必要である。マクロ経済政策による景気の下支えとリスク負担の分担メカニズムの構築によってリスクコストを下げ、金融と実体経済の双方向に作用させていく。具体的には、次のいくつかの政策である。


一つ目は、適度な金融緩和を維持したマクロ経済政策である。マクロ政策(特に金融政策)はレバレッジ解消とリスク拡大防止との間でバランスを取りながら、同時に政策の安定性と連続性を維持する必要がある。経済構造調整が進んでいくに従い、一部の業界、一部の地域だけでなく、一部の金融機関にまである程度のリスクが現れていることは、市場メカニズムが効力を発揮している途上であることを示している。経済サイクルの中で生じる通例の損失や過去の積み残しとなった不良債権を償却するためには、適度な範囲で、整然と信用リスクが表面化することを認めるべきである。ただし、この過程において、金融リスクの極大化を厳重に防止する必要がある。適度に安定した成長には、信用リスクの拡散防止と金融市場の期待の是正がきわめて重要である。当面の安定成長の重点は、一定のGDP成長率や就業水準を維持することではなく、潜在的な金融リスクの極大化と拡散を防止することにある。


11月21日、人民銀行が2012年以来の貸出基準金利の引き下げを行ったことは、金融政策がすでにこのような調整を始めたことを反映している。預金基準金利が貸付基準金利と同幅に調整されなかったことから、短期では銀行の純利益を抑える可能性がある。だが長期的に見ると、利下げは有効に企業の借入コストを下げるだけではなく、企業の経営環境をも改善する。同時に市場に向けて積極的な緩和政策のシグナルを発したことで、実体経済の安定や金融市場の期待に対して積極的な影響をもたらし、信用リスクの低減に役立っている。我々はこの適度な緩和という政策の方向は、リスク予想が修正され、貸出や社会融資総量の規模が実体経済に対し正常な状態に戻るまで継続されると推測している。


二つ目は、金融管理・監督政策の改善である。まず、信用リスクに対する管理を強化し、管理・監督規則を適時適切に整備し、さまざまな新たなタイプの金融商品や裁定取引のリスクを統一された管理・監督の枠組みに取り込まなければならない。海外の経験によると、金融の市場化の過程で適切な再管理・監督(re-regulation)を行うことが必要であり、そうすることで巨大リスクの出現を回避している。このように、市場化とは単純に管理・監督をなくすのではなく、また金融革新を放置するのでもなく、各々のリスクの特徴の変化に基づいて、元々の規制や措置を緩和すると同時に、速やかに新しい管理・監督規則を作らなければならないものである。現在、多くの管理・監督規則があるにもかかわらず、裁定取引を狙った金融革新が急速に発展し、管理・監督を回避して、その有効性を下げると同時に、大きな潜在的なリスクが発生している。今後を考えると、監督当局は「実質は形式より重い」という原則に基づき、銀行の各種の新業務に対して規範を設け、これに適合した管理・監督の要請に対応するべきである。この他、裁定取引の管理・監督に関して、異なる管理・監督規則(とりわけ異なる監督部門が制定した規則)の整理を行い、監督部署間の協調を強化し、管理・監督の整合性を保ち、これらを以て裁定取引が発生する余地を狭めなければならない。


次に、景気変動を抑制する効果を持つ管理・監督に対する改革を進めなければならない。信用リスクが上昇している時期に、リスクの管理・監督を強化するのは当然のことであるが、過度に厳格な管理・監督は銀行のリスク回避の傾向を増加させ、実体経済の「資金調達難、資金調達コスト高」という問題を大きくする可能性がある。企業の資金調達が困難となることは実体経済の落ち込みを拡大させ、かえって銀行の信用リスクが増すことになる。これがいわゆる金融管理・監督の規制が景気変動を増幅する効果である。実際に管理・監督及び銀行の自己評価における信用リスクに対する過度の強調により、銀行の貸出は極端に制限され、実体経済にマイナスの影響を生み出している。これに対し我々は、管理・監督部門が成熟した海外の経験を参考に、中国の実態を勘案し、管理・監督面における試行や改革を進め、銀行の業務に重大な影響のある政策(例えば、預金貸出比率、貸付規制、リスク許容度など)について、実体経済の動向に基づき、一定の弾力性を保ちながら調整を行うことを提案する。もちろん、中国の地域差が大きいことを考慮し、その地域に合った政策が行えるよう、このような弾力的調整の権限はできるだけ地方の一級監督部門に持たせるべきである。


三つ目に、リスク負担の分担システムを整備することである。信用リスクが拡大している場合、リスク負担分担システムはリスクを分散し、資金調達のハードルを下げる重要なシステムとなる。しかしながら、現在の担保、保険、相互保証などの方法でリスクを分担することは、基本的に商業ベースによる運用に基づいており、いくらかのリスク分散作用があるものの、企業の借入コストを下げる助けにはならない。信用リスクが絶えず上昇している状況では、上述の担保システムではほとんどの場合苦境に陥ってしまう。担保を差し入れた企業の破産は少なくなく、「聯保」貸付制度のもと、一部の借り手の違約がさらにリスクを拡散させている。


政府は適切な範囲で直接的もしくは間接的にリスク債権の損失の分担と処理に関与すべきである。現在、一部の地方政府は転貸基金やリスク基金を設立し、企業の貸付返済期限延長に便宜を図り、一部の貸出焦げつきによる損失を直接分担するなど、ある程度企業(とりわけ小型・零細企業)の借入環境は改善されている。ほかにも、リスクが相対的に突出している一部の地域では、地方政府が積極的に不良債権の回収や処理に介入することで、地域の金融リスクを緩和し、金融の安定化に努め、積極的な役割を果たしている。

(2014年11月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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