中国で住宅市場のリスクが高まり、不動産バブルが大きくなっていることに関しては疑いの余地はない。不動産市場の現状から見て、バブルは過去と比較して既に広範な地域で十分大きくなり、リスクも自然と大きいものになっている。調整は始まっているものの、不動産市場の下落は近い将来の主要なマクロ経済のリスクとなっている。
実際に、現在の不動産市場の問題については、中央から地方、民衆から官僚まで、皆が認識しており、不動産バブルの重大性も知っている。不動産市場が運営されていく上で最も問題となる点は、政府のマクロ経済政策が現在においても不動産市場への介入によるコントロールという手段から抜け出すことができないことである。経済成長が過熱した場合は経済及び行政による手段によって不動産への投資を抑制し、経済成長が減速した場合には不動産投資を刺激する政策が打ち出されている。
現段階の中国経済に必要なのは効率的で質の高い発展パターンであるが、現実とは大きな開きがある。信用貸出の過度な増大が牽引する不動産投資が依然として現在のGDPの主要部分なのである。
つまり、不動産市場で周期的な調整が行われても、住宅価格はごくわずかに下落するだけであるが、この影響で将来に向けた経済成長にかかる下押し圧力がますます大きくなるだけでなく、銀行の信用貸出、地方債務に加え、マクロ経済全体に対するリスクとして現れてくる。誰もこれらのリスクを担いたくないことから、不動産市場の調整がもたらしうる巨大なリスクを目にしたとき、政府は新たな行政による介入策を採用し不動産市場の大規模な調整を回避せざるを得ない。特に地方政府は次々と不動産市場の救済政策を打ち出している。中国は経済成長モデルを変えなければ、不動産市場への介入によりマクロ経済を調整するという事態からは抜け出すことができないのである。
既存の土地制度や金融制度の下では、どの官僚も着任すると自身の業績と利益の最大化を追求し、不動産はその目的を達成するための格好の手段となっている。
さらには現在の金融制度では、土地担保融資は地方政府が低コストもしくはゼロコストで銀行等の金融機関から必要な資金を獲得する最良の手段となっている。そして、資金の獲得は都市のインフラ建設の規模を拡大させる。こうして、GDPや、土地使用権の売却を通じた財政収入は増加し、つれて住宅価格が上がり、都市は表面上繁栄し、地方政府の短期的な業績もアップする。地方政府にとって、不動産は経済成長をもたらす最良の手段なのである。
現在多くの都市の住宅価格が上昇し、不動産バブルが大きくなっているのは、政府の不動産取引制度への関与に重大な欠陥があることが関係している。世界中のいずれの国家も不動産の投機的売買に対してある程度の制限を設けているが、中国は住宅ローン優遇政策や不動産税制が住宅価格を押し上げる方向に作用し、それがGDPの繁栄を作りだしている。
なぜ、不動産市場への介入がこれまでずっとマクロ経済のコントロールの手段となっていたのか。それは、政府が不動産市場の発展に向けた長期的で有効な政策メカニズムを制定していないことと大いに関係している。現在の状況では、政府にも不動産市場を安定させるために選択可能なプランが存在していない。住宅価格の下落が金融システムのリスクを惹起する可能性であれ、経済成長の鈍化による周期的な調整であれ、政府がこれらの問題を解決するには結局、住宅投資へ向かう資金を増やすことが最適な方法なのである。
不動産市場への介入を通じたマクロ経済のコントロールは、中国の経済成長モデル、政府の業績評価制度、土地制度、住宅取引制度などと関係している。これらを改革しなければ、政府が不動産をマクロ経済の調整手段とすることから抜け出すことは不可能である。これは経済改革における最大の障害であり、今後の中国経済の成長に向けた最大のリスクとなるであろう。
(2014年9月発表)
※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。
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