中国社会科学院「中国の金融市場は既に苦境を脱している」

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2014年09月08日

  • 易憲容

中国の金融市場は既に幾分情勢が好転しており、2013年以来続いていた苦境を基本的に脱している。社会融資総量の伸び率、金利水準、およびシャドーバンキングに内在するリスクが2013年より改善している。突発的な事件が発生しなければ、改善状況は継続し、中国の金融システム全体のリスクが低下すると期待される。


2014年上半期の金融データは既に発表されている。このデータに表れている情報が現在の中国の金融市場の情勢を判断する重要な根拠となる。


まず、上半期における国内金融市場の最大の変化は人民元相場である。中国政府による人民元相場の切り下げ介入は、裁定取引を通じたホットマネーの大量流入を阻止することになった。人民元相場の官製管理によるこの十数年来の人民元の一方的な上昇継続といった市場の思惑を裏切り、海外から中国に流入するホットマネーを急激に減少させた。これによって金融政策の自由度は高まり、金利の市場化改革を実施する余地が広がった。上半期の外貨建貸出や外貨準備の増減は全て人民元相場の変化と関係している。


次に、上半期の社会融資総量や銀行貸出の伸び率から見ると、与信はこれまでの最高記録を更新している。例えば、社会融資総量は前年同期比で4,146億元増加し(2013年も最高記録を更新したが、さらに増加)、うち、人民元貸出は6,590億元の増加、外貨建貸出は1,159億元の減少、信託貸出も7,764億元の減少だった。銀行の信託貸出が社会融資総量に占める割合が下降していく状況に変わりはないものの、その傾向はいくらか鈍化している。シャドーバンキングに対する管理強化や人民元改革によって、国内のシャドーバンキング管理には一定の成果が見られる。例えば、上半期の信託貸出は60%以上減少するなど、国内の金融システムにおけるシャドーバンキングのリスクは徐々に低下している。


また、銀行貸出の構造調整も良い方向へ発展していることがわかる。まず、上半期の銀行貸出は6,590億元と大幅に増加(伸び率は+14.7%)し、特に6月の伸びが大きい。この中で個人向け貸出の伸び率は非金融企業向け貸出の伸び率よりはるかに小さくなった。また非金融企業向け貸出の内訳では中長期のものが大きい。(つまり上半期に大幅に増加した貸出の多くが非金融企業向けの中長期貸出である。)


この状況は数年前とは大きく異なっている。以前、特に住宅価格および販売金額が急速に伸びた数年間は、個人貸出の増加ペースが非金融企業のそれよりも速かった。当時、個人向け貸出は中長期が中心であった一方で、非金融企業向け貸出は短期がメインであり、その増加ペースは住宅ローンのそれよりも遅かった。つまり、数年前に急速に増加した銀行貸出の大部分は個人による不動産市場への参入に起因することを示している。この過程で不動産価格が高騰したといえよう。だが今年の住宅市場は周期的調整によって、投資家が次第に撤退している。企業も不動産市場への参入を控えている。銀行も住宅ローンのリスクに対する見方を変えており、加熱した住宅市場へ過剰に融資することを避け、企業による中長期の投資へ融資するようになった。この過程の中で国内の信用貸付の構造全体が徐々に改善されている。


さらに、上半期にネット金融が急激に拡大したことは銀行預金の減少を招いており、その結果、金融市場全体の金利水準を上昇させた。しかしながら、緩和的金融政策の影響で金融市場は徐々に正常に戻ってきている。今年6月の銀行間市場における貸出加重平均金利は2.85%、質権式の加重平均レポレートは2.89%となり、双方の水準とも2013年同期の6.58%と6.82%と比較して半分以下となった。現在の銀行間市場の流動性の高さや、監督部門による管理強化の効果が発現したことで、金融市場および銀行間市場における期限や構造のミスマッチが改善したことが見て取れる。


社会融資総量と銀行貸出は共に落ち着いた状態にあり、金融政策当局は過度の刺激策によって社会融資総量をさらに拡大させる必要はない。現在、零細企業や不況業種の資金調達が困難になっている原因は金融政策にあるのではなく、金利の市場化改革の遅れや零細企業自体にある。経済成長にかかる下押し圧力は、不動産市場の周期的調整による必然の結果であり、資金調達額の増加で変えられるのものではない。


シャドーバンキングを健全化させる政策の効果は既に現れているものの、中国の金融システムが直面している潜在的リスクが完全になくなったわけではない。不動産の周期的調整がどこまで進展するかといったことは依然として最大の問題である。不動産価格が合理的水準を取り戻し、住宅市場が投資主導から消費主導へ転換するならば、この調整が国内金融システムに対する衝撃と影響は非常に大きいものとなる。

(2014年8月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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