中国社会科学院「従業員持株制度は新たな労使関係の基礎を築く」

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2014年06月30日

  • 尹中立

従業員持株を認めるかは、企業の内部管理構造の改善や資本市場の持続可能な発展だけでなく、国家の成長戦略にまで関連するためおろそかにはできない。


国内の研究者の間では、企業の管理者層が株式を保有することはその企業の成長にとって有益であるが、従業員層が保有することの意義は小さいという見方が大勢である。


筆者は、この見方は従業員持株制度が企業経営に与える影響を軽視していると考えている。典型的なマルクス主義学説の観点によれば、資本家と労働者は対立するものであり、搾取と被搾取の関係にある。しかし、西側諸国が実践する従業員持株制度では、この対立を一定程度緩和することが可能である。


米国政府は企業に従業員持株制度の導入を推奨している。従業員持株制度は、「人民資本主義」の中心的内容である。


従業員持株は中国の株式市場でも一時期話題となった。証券監督管理委員会の規定によれば、人民銀行の認可を得た少数の金融機関を除き、上場前に株式を保有する従業員が200人を超える企業の上場は一律に認められていない。さらに、労働組合持株、持株会、個人の代理保有などが存在する企業も上場することができず、上場するにはあらかじめこれらの持株を整理する必要がある。従って、既に従業員持株制度を実施している企業にとって、株式市場に上場することは難しい。


例えば、国内の多くの都市商業銀行(City Commercial Banks)は都市信用合作社(Urban Credit Cooperatives)から形態を変えたものであり、いずれも株主は200人を超えていることから、株式市場からの資金調達とは無縁である。既に従業員持株制度を実施している企業は、上場するために従業員に対して持株を社外の第三者へ売却するように強制している。このように、上述の証券監督管理委員会の規定は企業の資本政策に多くの困難をもたらしている。


従業員持株はなぜ歓迎されないのだろうか?監督管理機関の観点から見ると、主に次の二点が懸念されている。


まず、従業員持株は国有資産の流出を容易に招きうる。


このような事態は既に生じており、ある企業では従業員に対し比較的低い金額で株式を発行したことで、国有資産が少人数の懐に入る結果となった。だが、国務院の国有資産監督管理委員会はここ数年で一連の国有資産流出防止政策を実施している。具体的には、資産の監査・評価手続きのルール化や財産権取引所での取引を強制することなどが挙げられる。理論上は、これらの制度によって国有資産の流出を防ぐことが可能である。


しかし重大な国有資産の流出の多くは地方政府官僚の職務怠慢、あるいは背任から起こったことである。このような状況では、どのように制度を改変しようとも国有資産の流出を避けることはできない。ただ、様々な制度改変と実践により判明したことは、大規模な従業員持株制度がある場合、官僚の収賄の可能性は最も小さくなることである。なぜなら、集団の利益のためにわざわざ法的リスクを受けようとする者はいないからである。


もう一つの懸念は、従業員持株制度によって資本市場の秩序が乱されることである。


1990年代、多くの企業の従業員持株は「一級半」市場(未上場株や従業員持株の場外取引市場)で広く流通して資本市場の秩序を大いに乱していた。書類上の契約手続を行わずに架空の従業員株を発行する企業や従業員持株を政府官僚への賄賂に使用する企業などがあったことは、証券監督管理機関が従業員持株を厳重に警戒する重要な原因となったであろう。しかも、従業員持株は監督管理担当者の作業量を少なからず増やしており、「事を一つ増やすより一つ減らす方がよい」という指導方針のもと、従業員持株は整理される対象となった。


しかしながら、現在の中国で最も国際的な企業であるレノボやファーウェイの成功は、まさに従業員持株制度によるものである。ファーウェイは、まずこの制度を試み、軌道に乗ったところで巨額を投じて国際コンサルティング会社による制度の設計と改善を行った。ファーウェイでは現在、従業員は全員自社株を保有しているため、規定上では上場条件に適合していない。同社は以前香港のメインボードに上場しようとしたが、従業員持株の規定によってその道を阻まれたのである。このように中国の株式市場制度が最も優秀な企業を排除していることは、その制度設計に間違いなく問題があるといえる。


従業員持株制度は新しい労使関係の基礎を築き、コーポレートガバナンスの改善に有益である。このため、従業員持株を認めるかどうかは、企業内部のガバナンスの改善や資本市場の持続可能な発展だけでなく、国家の成長戦略にまで関係してくる問題であり、おろそかにはできない。

(2014年5月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です

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