中国社会科学院「2014年の世界貿易の伸び率4.7%が中国の輸出に対して意味するものとは?」

RSS

2014年06月04日

  • 呉海英

世界貿易機関(以下、WTO)は4月14日、2014年の世界貿易展望を発表した。


WTOによると、世界貿易は2年間の低成長を脱し、2014年は4.7%、2015年は5.3%の伸び率に回復すると予測している。過去20年間の平均伸び率である5.3%は超えないものの、直近2年間の平均2.2%は上回ることになる。以下はWTOの報告の要点と中国の2014年の輸出に対する影響の分析である。

一、2013年の世界貿易の回顧

2013年、世界の商品貿易総額は18兆8,000億米ドルとなり、金額ベースでの伸び率は2.1%、数量の伸び率は2.4%であった。成長ペースが緩慢となった原因は、先進国の輸入が低迷した(▲0.2%)ことに加え、途上国の輸入の伸びも緩慢だった(4.4%)ためである。先進国と途上国の輸出の伸びはそれぞれ1.5%と3.3%であった。成長が力強さを欠いた要因には、欧州債務危機の影響が続いており、ユーロ圏の失業率が高い状態であること(ドイツを除く)、米国連邦準備制度理事会(FRB)の量的金融緩和の縮小が示唆されたことなどがある。後者は2013年下半期に途上国の金融市場に波乱を起こした。とりわけ、大幅な経常赤字を抱えていた新興国への影響が大きかった。

二、2014年の世界貿易成長の原動力とリスク

2014年の世界貿易が成長する原動力は主に先進国経済の回復傾向が強まることである。最近の米国と欧州の企業レベルと工業生産のデータがこの点を明らかにしている。つまり、米国の雇用統計が改善していることを受けて、FRBはQE3の縮小計画を進めている、欧州の周辺国の経済状況は中心国には及ばないが、その成長の見通しには既にいくらかの改善が見られる、財政再建計画の実施により日本の今年の経済成長のスピードは若干低下するにとどまる、などである。最後に、途上国(中国を含む)の経済成長の勢いは最近弱まっているものの、それでもGDPと貿易の伸び率は引き続き先進国を上回る。ただし、先進国の金融政策の影響を特に受けやすいいくつかの国が危機を迎える可能性がある。


2014年の貿易成長のリスクは途上国により多く存在する。このリスクには、インドやトルコなどが抱える膨大な経常収支赤字、アルゼンチンなどの通貨不安、需要を超える過度の投資、経済のリバランスを行っている国の多くは国内消費が強い一方で輸出需要が弱いこと、などがある。この他、地政学的リスクが世界貿易の予測における想定外の不確定要素となっている。中東、アジア、東欧の地域内矛盾や衝突はエネルギー価格の上昇を引き起こし、衝突がエスカレートすれば貿易に悪影響を及ぼす可能性がある。

三、WTOの貿易展望が2014年の中国の輸出に対して意味するものとは?

この問題には中国から見た外需と輸出競争力の変化といった角度から回答していく。中国の輸出の伸び率は、中国の貿易相手国の輸入の伸び率とその中で中国が占めるシェアの伸び率の和である。前者は一般的に中国の外需の変化とされ、後者は中国の輸出市場に占めるシェアの変化、または輸出競争力の変化でもある。


2014年の世界貿易の伸び率は4.7%であり、これは中国の外需の伸びが約4.2%であることを意味している(※1)。中国の輸出が直面している外需はWTOが提供した世界の輸入全体から中国の輸入と香港の輸入を除き、そこへ中国に再輸出する分を除いた香港の輸入を加えたものである(※2)。この他、中国の輸出市場のシェアを求める際に必要な貿易相手国の中国からの輸入データを集計する際に、香港の中継貿易の重要性を考慮し、中国を輸入対象としている国を3つに分類した。具体的には、香港、香港経由の中継貿易のデータを含む国(50ヵ国)、その他の貿易相手国(164ヵ国)(※3)である。推計によると、2013年に中国が輸出市場で占めたシェアは13.9%である。この数値は中国の生産コストが高止まりしている中でも高水準で推移しており、2014年の中国の輸出競争力は変わることはなく、中国の輸出市場のシェアは2012-2013年と同程度である4%成長(※4)を維持すると予測している。


「表1」のシミュレーション1では、WTOの予測数値をそのまま採用し、2014年の外需が適度に回復し、中国の輸出の伸び率は約8%になると予測している。仮にWTOの予測が実現した場合、2014年の世界全体の輸入の伸びは4.7%となり、香港の中継貿易のデータで調整すると対応する中国の外需の伸び率は約4.2%となる。これに輸出市場のシェアの伸び率4%を加えると、中国の真の輸出の伸び率は8.2%になる。同時に、中国の税関当局ベースのデータに基づいた場合、輸出の伸び率は7.9%と計算できる。この二つの数字が違う理由は、まず、2013年の相手国の輸入が表している中国の輸出に約1,209億米ドルの虚偽貿易(※5)が控除されているかどうか、つまりそれぞれの輸出が基準にしている2013年の数字が異なっていることが挙げられる。もう一つの理由は、2014年の輸出もそれぞれ異なることである。2014年の中国税関当局ベースの輸出データには、相手国が中国からの輸入として集計したデータに約1,215億米ドルの再輸入(※6)を加えている。これらは俗に言う「国産品の再輸入」で輸出製品が香港を通過して再び中国に輸入されることに起因するもので、相手国の輸入には含まれていないが、税関の統計には中国の輸出として集計されている。


2014年の世界輸入が回復するペースがシミュレーション1の半分、すなわち外需が中程度回復すると仮定するシミュレーション2では、2014年の中国の輸出伸び率の予想は6.4%である。また、2014年の外需が回復せず、2013年と同レベルとするシミュレーション3では、2014年の中国の輸出伸び率は約4.5%である。(訳者注:この段落では前後の内容を踏まえ、輸出の伸び率に相手国の輸入から算出した値を使用した。なお、原文では中国税関ベースの値が使用されている。)


このように、中国の輸出競争力が急速に伸びることが難しくなっている状況で、2014年に外需がある程度回復することは中国の輸出を支え、中国政府が目標とする7.5%前後の経済成長を実現するカギである。2014年の世界貿易が4.7%拡大するといったWTOの予測が実現すれば、中国は輸出を牽引役として成長目標を実現すると期待される。もし外需に明らかな改善がなく、2013年と同じ水準であれば、2014年の中国の輸出の伸びは4.5%前後となる可能性がある。

(2014年4月発表)

表1:外需は2014年の中国の輸出を決定する要素である

(※1)2014年の中国の輸入の伸びを7.5%とし、香港の輸入全体とその中で中国に再輸出する分を除いた部分の伸びは2013年と同じで、それぞれ12.4%、18.5%とした。
(※2)このように処理する理由は、WTOが提供している世界の輸入が香港の中継貿易を含んでおり、最終消費国の輸入データにこれらの中継貿易のデータが重複計上されているからである。
(※3)香港中継の粗利率を考慮し、国連ComTradeのCEPII-BACIのデータベースを利用した。推計方法の詳細はCEEM(中国社会科学院世界経済・政治研究所/世界経済予測・政策模擬実験室/中国外部経済環境モニター)の論文2014.001「中国の輸出の真の規模の推定」12-13ページを参照。本レポートはCIF価格を用い、FOB価格ではない点が異なる。
(※4)今年2月以来の人民元の実質実効為替レートと人民元の対米ドル為替レートが下がっている状況を考慮すると、2014年の中国の輸出市場におけるシェア伸び率は4%より高くなる可能性がある。
(※5)CEEMの活動論文2014.001「中国の輸出の真の規模の推定」13-14ページ参照。
(※6)輸出後の再輸入の推計は2回の貨物輸送保険及び香港中継の粗利率を考慮している。具体的には、CEEMの活動論文2014.001「中国の輸出の真の規模の推定」の4-5ページ参照。再輸入は2010-2013年の間、毎年増加額が安定しており、年平均127億米ドル増加している。このことから2014年の再輸出額は1,215億米ドルと推定した。


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。