先日の報道によると、中国人民銀行の副総裁である潘功勝氏がシャドーバンキングの観測に向けた統計の確立について研究を進め、基礎的な枠組みを設計し、監督管理部門間の協力を強化する必要があることを強調した。
中国におけるシャドーバンキングには海外のそれとは明らかに異なる特徴が内包されているため、海外の統計分析方法を直接中国に応用することは難しい。統計の構築により、現在の「高射砲で蚊を打つ」かのようなシャドーバンキングの監督管理の状況を徐々に変えていき、正確に中国のシャドーバンキングの実態を映し出していく。もちろん、統計を構築する過程では、国情を十分に考慮する必要がある。その理由は、海外におけるシャドーバンキングの概念はすでに一致する方向に向かっているからである。金融安定理事会(FSB)の定義に照らすと、シャドーバンキングとは、銀行の監督管理システムの枠外にあって、市場リスクや裁定取引に大きな影響を与える可能性がある信用仲介システムのことを指している(各種の関連機関と業務活動を含む)。これに対し、中国の銀行業監督管理委員会は、2012年の年次報告において、監督している6種類の非銀行系金融機関(信託会社、企業団体金融会社、金融リース会社、マネーブローカー会社、自動車金融会社、消費金融会社)が行う業務や、商業銀行による理財商品の販売などの簿外業務はFSBの定義と異なり、全てシャドーバンキングに属さないとしている。シャドーバンキングは主に次の3種類に分類される。具体的には、①営業許可証を持たず、全く監督管理されていないもの、②営業許可証を持たず、管理監督が不足しているもの、③営業許可証は持っているが、監督管理が不足もしくは監督を避けている機関あるいは業務が存在しているものである。
既に、シャドーバンキングは各国の金融政策に影響を及ぼす主な要因の一つとなっている。例えば、米国の連邦準備制度理事会(FRB)はシャドーバンキングがもたらす金融の脆弱性に対応するため、多くの政策措置を打ち出すことに尽力し、さらに投資銀行による金融派生商品の取引や銀行類似業務の展開に対して規制を加えた。例えば、2013年末に承認された「ボルカー・ルール」は金融機関による無謀な利益追求や危険な取引を防止することを目的とし、主に銀行の自己勘定取引やヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなどへの投資を規制することとしている。一方で、中国のシャドーバンキングの規模は、GDPに対する割合からすると世界的に見て高くはない。しかし、中国人民銀行による通貨供給量の正確な把握やコントロールの有効性といった面に問題が生じており、しかも取引される金利の「多元」化が生じてしまっている。この問題に対して、「外科手術」による監督管理を実行しようとも、シャドーバンキングの根源に「内科治療」を施すにしても、どちらもまず統計を整備した上で「通常検査」を行うことが必要である。
可能な限り標準化した統計を構築し、いかなる「影の取引」や「影の機関」もこの範囲に取り込み、万全で取引参加者に開放された金融情報システムを打ち立て、サポートしていかなくてはならない。この基礎の上に、徐々にシャドーバンキングの動向を監視するのに有効なメカニズムを形成し、各部門の具体的な監督管理業務と有効に結び付けていく。最後に、統計による把握の強化によってシャドーバンキングの「正確なコントロール」が可能となる時には、当局による監督管理の行き過ぎを避ける必要がある。市場リスクを監督管理することが可能となり、シャドーバンキングを影から白日の下に晒すことができれば、シャドーバンキングは金融イノベーションや金融の改善を阻む障害ではなくなるのである。
※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。
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