2013年9月 「2013年の世界経済の概要」

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2013年12月06日

  • 張宇燕

IMF(国際通貨基金)がこの1年間、世界経済の成長率予想を何度か引き下げたことは、世界経済の回復が依然困難な道のりであることを反映している。経済成長率は全ての経済指標の中で経済の状態と動向を最も反映する指標であり、それは雇用、短期資本移動、国際貿易と海外直接投資、国際商品取引とその価格変動などに対して深く関係している。


世界一の経済大国である米国からは多くのポジティブな情報が伝えられている。例えば、1)米国は14四半期連続でプラス成長を継続、2)失業率は緩慢ではあるが3年連続で低下、3)政府の財政状況は改善、4)家計のバランスシート調整は徐々に進展、5)住宅着工の増加と住宅価格の上昇、6)株価上昇による資産効果を受けて消費支出が増加、7)シェールガスの開発によるエネルギー価格の下落が耐久消費財の需要増と製造業の発展を促進、8)物価は低水準を維持、などが挙げられる。反対に米国経済のネガティブな情報としては、1)財政の「強制歳出削減」の効果は衰えたものの依然として成長にマイナスの影響を与えている、2)伝統的および非伝統的な金融政策がほぼ使い尽くされた、3)家計の収入増加ペースがほぼ停滞、4)労働生産性が過去4年間でゼロ成長、5)「ベビーブーム」世代の退職がピークとなることで財政支出や就業人口の成長に大きな影響を及ぼす、6)企業は数兆米ドルに及ぶ現金を所有しながら投資意欲がきわめて低い、などである。米連邦準備制度理事会(FRB)は最近「量的金融緩和」の縮小について議論しているが、経済情勢を総合的に考慮すると、「縮小」がたとえ年内に始まるとしてもそのペースは緩やかなものとなるであろう。


半年あまり経過した日本版の「量的金融緩和」には効果が見られる。多くの人が2%のインフレ目標を1年以内に実現することは難しいと考えているが、経済成長率は堅調に推移し、株価も起伏はあるものの全体的には上昇しており、円も米国の黙認の下、大幅な下落となった結果、輸出も伸びている。ただし、「アベノミクス」で有名になった「量的金融緩和」に対しては、疑問視したり判断を保留したりしている人も多い。高齢化問題についてもアベノミクスは対応に成功しているとは言えない。また、特に3~4年後に到来する「ベビーブーム」世代の大量退職によって、国債市場を支える国内の貯蓄は減少していくことになる。GDPの2.5倍近い政府の債務を機敏で逃げ足の速い海外投資家に頼らざるを得なくなったとき、日本も高リスク国となる。一面でアベノミクスはとうに倒産すべき「死に体企業」の寿命を延ばしているわけだが、抜本的な構造改革にまでは及んでいない。日本の民間企業の資本・産出高比率は米国の半分にすぎないことから、企業経営の低効率が見てとれる。世界で最も高い法人税を減税し、消費税を増税することは諸刃の剣となるであろう。すなわち、政府債務を安定化させること、投資を拡大すること、消費を拡大させること全てを同時に日本が実現することは困難である。


2013年のユーロ圏は通年ではマイナス成長となることがほぼ決定的であるが、マイナス幅は縮まってきており、年末にはプラス成長に転じることが可能であろう。欧州経済の成長を妨げる要因として、高齢化と一部の国の債務比率が高すぎること以外に、金融システムがバランスシートの修復期にあること、各国間の政策協調が国内政治の影響で困難となっていることが挙げられる。欧州債務危機は短期的にはほぼ収まったように見えるが、長期的にはまだ多くの不安定要因をかかえている。労働生産性の南北格差などが具体例である。一方、良い情報は、債務危機に対応する過程で、財政および金融に対する監督の一元化が大きく進んだことである。


ユーロ圏と対照的に、中国の経済成長は既に明らかに減速しており、2013年の成長率の予想は7.5%である。中国経済の減速にはいくつもの要因がある。具体的には、労働コストの上昇、偏った産業構造、イノベーション能力の弱さ、国内消費の不足、投資収益率の低下、整備不足な市場環境、海外需要の減少、国際金融危機に対応するために行われた拡張的な経済政策によって生み出されたレバレッジの解消、などである。今後5~10年の中国の潜在成長率が7%~7.5%であることを考えると、現在の成長率は潜在成長率に近づいているといえる。


米国、ユーロ圏、中国、日本の経済規模を合計すると世界経済全体の60%を占めている。これに鑑みると、四大経済体の経済情勢を考察することで2013年の世界経済全体の動きを基本的に説明することができる。結論として、2013年の世界経済の成長率は約3.3%であるとみられる。


※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。

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