2013年9月 「自由貿易試験区は体制改革の「実験台」となるべきである」

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2013年11月08日

  • 劉煜輝

8月に国務院によって承認された上海自由貿易試験区(以下、試験区)がまもなく正式に発足する。当試験区の位置づけと今後の発展について、現在、3つの整理すべき問題がある。


1、上海自由貿易試験区とはどのようなエリアであるのか?人によってはこの試験区を過去30年の改革開放の古いモデルと同じであるとみなし、経済特区や保税区のように政策による多くの優遇を享受できると考えてしまう。しかしながら、試験区設立の意図は、過去30年の経済特区や保税区の経験とは本質的な違いがあると筆者は強く感じている。過去のやり方は「円を描く」ことであり、ある経済特区を承認し、その圏内に相応の特権を与えると、圏内に高額の利益を生み出す特権や政策による優遇が形成される。ここから資本が圏内に流れ始め、経済の繁栄が実現する。だが、このような繁栄は権力の後押しによるもので、体制とメカニズムを深いレベルで改革するには必ずしも至っていない。


試験区はすでに改革試験区という高いレベルに到達している。今後、試験区は改革の先頭に立ち、中国の経済モデルの転換に対して積極的な枠組みを提供する手本となる。試験区の鍵となるのは、改革から生み出される利益を上海のみが受け取ることではなく、試験区で得られた貴重な経験を全国各地が踏襲することで改革の利益を広めることである。この改革の過程では、政府が自身の権力を大幅に譲歩する必要がある。試験区は貿易資源を強調しすぎることなく、中国の未来の改革の実験台となり、現体制の弊害に深く切り込み、正しい進路を探し出さなければならない。


2、企業はどのように上海自由貿易試験区を捉えるべきか?現在、多くの企業は試験区を天国のように考えているが、経済学の観点から見ると、試験区は今後の市場化改革の中で価値発見の機能を作らなければならない。この点からは、試験区はおそらく天国ではなく、鍛錬の場であると言えるかもしれない。試験区に入った企業は経営モデルを変えなければならず、そうすることでようやく世界レベルの企業となれる。反対に権力と近すぎる企業はこの試験区では淘汰されるであろう。


規制が多い中国で会社を経営するのは難しいと考えられおり、それには一定の道理がある。だが、成功している企業の背後には政府権力による配慮があることを見るべきである。基本的に経済成長を推し進める多くの要素は地方および中央政府の経済関係部門が握っている。土地、採掘権、徴税、許認可、環境保護基準など、どの項目も少しでも変更があれば、地方政府にはいくらかの利益がもたらされ、それと関連する取引には儲けのチャンスがある。試験区では不必要だった多くの規制が減ったことで、企業は経営コストを縮小することができるが、政府の庇護は失うことになる。そしてこれからは更に高い基準に直面し、国際ルールの下で競争に参加しなければならない。自ら企業家精神を奮い起こし、競争と革新を奨励していくことが、中国企業が試験区で成功する唯一の道である。


3、上海自由貿易試験区のリスクはどこにあるのか?現在より更に高いレベルへ改革を推進することは難しいが、試験区の扉が少しでも開かれれば、為替レートと金利が変動し始め、資本取引の開放が実現し、下から改革を迫ることになると一部で考えられている。しかしながら私は、このような見方には議論の余地があると考えている。


目下のところ、改革の機会は既に何度か逸してしまったと言うべきである。例えば過去10年間、我々は米国の金融緩和と世界経済の回復を捉えて経済構造の問題を解決してこなかった。そして現在、米国の金融緩和は縮小し始めている。資本取引を規制する「防火壁」をもってしても、抜け穴を通じた大量の資金流入が中国経済に傷痕を残している。しかし防火壁は依然として存在し、ある程度において中国経済を一定のリスクから隔離することが可能である。当面の急務はこの壁を壊すことではなく、財政を整理し、人民元の国際化と資本取引の開放に向けた環境を用意することである。こうした点から、上海自由貿易試験区は中国の改革の実験台として、体制の突破口となるべきである。


※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。

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