2013年7月 「金利の自由化「一葉落ちて天下の秋を知る」」

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2013年08月09日

  • 何帆

最近発表された金利の自由化(中国人民銀行が7月19日に発表した銀行貸出金利の下限撤廃)についてのニュースは市場に議論を呼び起こしている。積極的に議論しているのは経済学者であるが、精緻な議論を行っているのは市場関係者である。また、この問題に対する市場関係者の反応は的を射たものと言える。


議論を要約すれば、大部分の学者と市場関係者は今回の金利の自由化を象徴的なものとして捉えており、市場への影響は比較的小さいと考えている。貸出金利の上限はすでに規制が撤廃されているものの、預金金利の上限はいまだ固定されている。今回の金利の自由化で、最も重要なのは貸出金利の下限を撤廃したことである。資金不足が収まった後に銀行に金利を引き下げて良いと伝えても、まともに取り合う銀行はいない。例えるなら、飢饉の際に、政府が米屋に対して値下げしても構わないと伝えるようなものである。


金利に対する規制は、典型的な金融規制といえる。金利の自由化は遅かれ早かれどの国も通る道である。たとえ今回の貸出金利の自由化が小さな一歩であっても、前進あるのみ。「一葉落ちて天下の秋を知る」(わずかな兆しから全体の動きを予知する)——残念なことに人々は天気の変化について議論しているだけで、季節の変化については気にかけていないのである。


日本と台湾の経験に鑑みると、金利の自由化は進展すればするほど難しく、難しくなればなるほど後に引き延ばされる。引き延ばされれば最終的にはリスクが大きくなるのである。金利の自由化は銀行の利ざやの縮小を意味する。銀行はその縮小した利ざやの中でひしめき合い、さらには銀行以外の金融機関の参入によって金利競争は一層激化する。中小銀行は大手銀行に蹴落とされ、混乱の中で倒産するかもしれない。大手銀行であっても恐竜が絶滅したように運命から逃れることはできないだろう。実体経済からみれば、金利の自由化はもちろん朗報であり、実質マイナス金利の時代が終焉を迎えることを意味する。しかし、幸福は霧雨のようにすべての企業に均等に降るわけではない。ジョセフ・E・スティグリッツ教授の理論によれば、金利上昇後、逆選抜(市場の失敗)が生じる可能性もある。たとえば、挑戦的な企業は金利が高くても借金をするが、それは元々返す意思がないのである。他方で堅実に事業経営を行う企業は戦々恐々として薄氷を踏むかのような状況に陥り、競争に後れを取って金利上昇後は挑戦的な企業によって淘汰されるかもしれない。金利の自由化が始まれば、たとえ小さい動きでもそれは金融市場全体に影響する。気温が下がるだけではない、季節はすでに移り変わったのだ。


寒くなってきたものだ。お体を大切に。


※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。

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