2013年4月 「わが国の財政金融体制改革「トップダウン設計」に関する思考」

RSS

2013年06月03日

  • 殷剣峰

一、序文


改革は既に現代中国社会全体の共通認識となっている。しかしながらどのように改革するのかについてはいまだに共通認識が得られておらず、とりわけ全体的な戦略および計画が形成されていない。過去10年にわたる経済、金融活動で積み重なってきた様々な弊害は、相互に入り混じり、複雑に錯綜して、「頭が痛ければ頭を、足が痛ければ足を治療する」といった対症療法モデルは既に先が見えている感がある。金融改革を例に取ると、現在注目されるのは多くが手段についての問題である。たとえば、市場の開設、機関の認可、新製品の開発、国外資金の流入の許可などをいかに多く行うかである。金利の市場化、人民元による貿易取引決済、人民元のオフショア市場の開設など様々な典型的な改革は、その他の金融改革(とくに資本市場の発展と金融機関業務の自由化)との連携を考慮していない。さらに言うまでもなく、他方面の改革、特に財政体制改革との協調も考慮されていない。本レポートで説明しようとしているのは、このような協調がなければ金融改革は成功しえないということである。


現在の金融改革にはまだ「下から上へ」という特徴が見られる。具体的には、温州、深セン、珠海など金融改革試験地域や上海の国際金融センター建設などである(周小川、2012年)。注目に値するのは、ここ数年の「下から上へ」の金融改革は根本的な金融監督体制にますます及んできており、それは地方政府による金融監督権力の分権に対する呼びかけに特に現れている。多くの国家や経済体と同じように、わが国の金融監督体制は中央集権モデルであり、「金融集権」と呼べる状態である。市場参入、組織管理、プロセス管理、危機救済、マクロ政策はおしなべて中央政府機能の範疇である。試験区となっている地方政府は初めからもしくは次第に中央の許可がなければ市場、機関、製品という手段を実行できないことを意識している。いわゆる「要政策」という、地方の「金融分権」に対する呼びかけがあり、このことは「第12次5ヵ年計画綱要」に初めて記載された。


金融分権は決して目新しいものではない。1994年の金融体制改革前、わが国の地方政府は巨大な資金調達能力を持っており、金融政策に影響を与えるまでとなっていた。他の大国や大型経済体の中で金融分権の歴史を持つのは、たとえば20世紀の世界大恐慌前のアメリカや、今まさに金融分権状態にあるユーロ圏である。しかし、最近のヨーロッパの学者によるわずかな発言以外、主流の金融理論の中では中央と地方政府の間の金融分権問題に関心が持たれていない。金融理論の視野は「自由化」と「監督管理」、つまり市場と政府の関係に集中している。たとえアメリカの歴史の中で州政府が大きな権力を握っていた自由銀行体制時についての研究であっても、州政府もしくは連邦政府のどちらが監督管理を実施すべきかどうかを討論したのであり(ウォルトン、ロックオフ、2011年)、連邦政府と州政府がどのように権力を分配したのかに関心があるのではない。


主流である経済学理論の中で、中央政府と地方政府間の権力分配についての分析は財政の集権と分権に集中している。いわゆる「財政連邦主義」である。このような状態であるから、国内の数少ない金融の集権と分権の研究はこの理論の枠組みのもとで展開されているのかもしれない(丁騁騁、傅勇、2012年)。しかしながら、これらの研究は財政分権理論の多くがインセンティブを与えるシステムに関する討論であり、地方政府を抑制するシステムについての分析が欠けていることに注意が払われていない。その原因は二つある。まず、財政分権理論は財政支出でなく財政収入により多く関心が持たれていること。次に、中央と地方の関係は財政分野以外に、金融分野、投資分野、要素(とりわけ土地)に対するコントロールにも反映されており、しかもこれらは財政分権理論の注目範囲に入っていない。財政と金融体制を整理統合する研究を通して、本レポートの「新たな貢献」は財政分権理論の中で軽視されている抑制システム(投資項目の審査制、金融の抑制、資本の流動性を含む)について補足していることである。


財政分権理論と金融発展理論の枠組みのもと、本レポートではわが国の財政と金融体制の進化の歩みを整理し、そこから三つの問題に対しアプローチしている。1、金融改革は集権、あるいは分権のどちらへ向かうべきか?2、将来の改革は「下から上」、それとも「上から下」へなされるべきか?3、もし「上から下」であれば、改革の基本的な方向と原則はどうあるべきか?以下、第二節と第三節に分けてわが国の財政体制と金融体制の歴史と現状について分析する。第四節では現在の財政金融体制が陥っている問題について分析し、あわせて「トップダウン設計」構想を提言する。第五節では三つの問題に対して簡単な回答を示している。


 


※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。