「国五条」(不動産価格抑制策)の細則が各都市によって打ち出されると、不動産市場にも微妙な変化が現れてきた。政策発表後の市場の反応や効果を見てみると、「国五条」は四つの面から挑戦を受けている。
一つ目は、20%の不動産所得税と安定した住宅価格との間の矛盾。「国五条」は住宅取引において厳格に20%の所得税を徴収することによって住宅価格を抑制しようとしているが、実際には住宅価格を押し上げる可能性がある。不動産市場全体が売り手優位の状態に置かれている状況において、税負担は必ず買い手がその一部もしくはほとんどを負担しなければならないと考えられるからである。
二つ目は、この政策は多くの家庭に離婚による税金逃れを促す可能性がある。各地域の実施細則に基づくと、一家庭につき一つの住宅のみが所得税を免除されることから、一つの家庭に二つの住宅がある場合、夫婦が離婚すれば各名義で一つずつの住宅を所持することができ、税負担を減らすことが可能だからである。
三つ目は、20%の所得税をどのように定着させていくかという難題。住宅取引で所得税を徴収すること自体は特に新しい規定ではない。2006年に政府はこの規定を公布し、2011年改訂の「個人所得税法」にも明確に記載されている。今回の「国五条」はこの規定を再度公布したにすぎない。各地の実施細則を見ると、大多数の都市は20%の所得税政策を回避しようとする態度を取っていることがわかる。最も積極的態度を取っている北京でさえ“弾力”を持たせた処理を行っている状況である。
四つ目は、安定した住宅価格と緩やかな成長との間の矛盾。2011年第3四半期後は有効な措置を採ったことから不動産市場価格の上昇傾向は抑制された。しかし同時に不動産投資も明らかに減少し、とりわけ住宅新規着工面積が大幅に落ち込み、経済成長には明らかな低下が見られた。この影響を受けて、不動産投資に関連する多くの業種に深刻な生産能力の過剰といった問題が生じた。
今年第一四半期のマクロ経済状況を見ると、消費、輸出ともに振るわず、不動産投資にのみ比較的速い成長が見られる。不動産価格に現れている急速な反発の真の原因はいわゆる「剛性需要」(生活する上でなくてはならない需要)ではなく、金融が緩和されていることにある。2013年の第一四半期の社会融資総量は6兆元に達し、2009年の第一四半期に次ぐ高水準である。不動産価格の急速な上昇をコントロールするのに最も有効的な手段は貸出と貨幣のコントロールであるが、これらは経済回復の歩みにも影響を与える。世界経済全体が振るわない中、緩やかな成長と住宅価格のバランスを図っていくことは現政権にとって重大な挑戦となっている。
※掲載レポートは中国語原本レポートにおけるサマリー部分の和訳です。
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