サマリー
2019年1月下旬に、中国の証券行政トップが交代した。劉士余氏が証券監督管理委員会(CSRC)主席を退任し、易会満・前中国工商銀行会長が後任に就任したのである。
劉氏がCSRC主席に就任したのは2016年2月であり、そのひと月前には株安・人民元安・外貨準備の急減が同時に発生し、いわゆる「チャイナ・ショック」と呼ばれる状況に陥っていた。同年1月の上海総合株価指数は月間22.6%安と主要国・地域で最大の下げ幅となった。当時は、景気減速に加え、政策対応の拙さや不透明性によって、マーケットが大きく動揺した。政策の拙さの最たるものが、年初に導入され、僅か4営業日後に停止されたサーキットブレーカー制であった。相場が一方向に振れやすく、1日の株価の値動きが大きくなりがちな中国市場で、15分間の取引停止時間中に冷静になってほしい、というのは無理な話である。サーキットブレーカー制は狼狽売りを招いただけであった。こうした状況下で劉氏の前任者であった肖鋼氏は更迭されたのである。
実は、劉氏と肖氏の退任時の株価を比較すると、劉氏の退任時である現在の方が、株価は安い(上海総合株価指数は2018年は年間で24.6%下落した)。それでも「引責」といった声が高まらないのは、劉氏が官製相場からの脱却(=改革)を志向していたことが要因のひとつではないだろうか。
株価が大きく下落し、マイナスの資産効果による消費への悪影響も懸念される中、2018年10月19日には、中国人民銀行の易綱・総裁、中国銀行保険監督管理委員会の郭樹清・主席、中国証券監督管理委員会の劉士余・主席(当時)が、「株価は良好なファンダメンタルズからかけ離れた歴史的低水準にある」等のコメントを一斉に行った。さらに習近平国家主席の経済ブレーンである劉鶴・副首相が、人民日報、新華社、中央テレビ局からのインタビューを受け、株式市場の健全な発展のために、①市場の安定、②市場の基本制度の改革、③長期資金の株式市場への流入、④国有企業改革と民間企業の発展、⑤株式市場の対外開放の拡大、の5項目を推進していくとした。従来の中国であれば「国家隊」と呼ばれる政府系資金が出動し、大型国有企業の株式を買い支えるといった展開が想定された。しかし、今回は大規模で継続的な買い出動は報道されなかった。「口先介入」とも称されたのはこのためである。官製相場による価格維持がかえって市場機能を弱体化させて投資家の離散を招き、株式市場改革に逆行するとの認識を証券当局が持つようになったのであれば、決して悪い話ではない。
結局のところ、劉氏は上海市場の科創(ハイテク)ボード創設決定を花道にCSRC主席を退任することになった。
後任の易氏は、1964年生まれで、中国人民銀行の職務を短期間経験した後に、1985年以降は中国工商銀行での勤務が続いた人物である。その経験が証券行政にどのように生かされるかは未知数としか言いようがないが、少なくとも官製相場からの脱却という方針は維持されることが望まれよう。
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