サマリー
11月半ばから後半にかけて中国北京市及び河北省石家荘市を訪れた。1年ぶりの訪問だったにもかかわらず、北京市や石家荘市にはポジティブ・ネガティブな変化が起きていた。
ポジティブな変化に関しては、日常生活の利便性が向上していたことである。例えば、従来は空港や新幹線の駅では正しく並んでいても横入りなどがたびたび起き、油断はできなかった。今回の訪中での驚きは、主要な公共の場において、誘導役の係員などが配置されたことである。中でも、ショッピングセンターではヒトではなく、ロボットが巡回し、誘導役を担っていた。
また、シェアリングエコノミーに関しては、街中でシェアリング自転車ではなく、シェアリング電気自動車をたびたび見かけた。都市部では渋滞抑制のためのナンバープレート規制があり、自家用車で自由に行動できない中、シェアリング電気自動車は新しい交通手段になるかもしれない。
宅配サービスに関しても変化があった。住宅地には宅配ボックスが置かれるようになった。以前は宅配サービスを頼んでも、配達員と配達時間を電話で交渉する必要があった。また、配達員も注文者と連絡がつくまで待つ必要があり、時間のロスが発生した。しかし、宅配ボックスがあれば、配達員も注文者もストレスを感じることはない。なお、宅配ボックスは着払いにも対応可能であり、注文者は宅配ボックスに表示されるQRコードを読み取り、支払うことでボックスを開けることが可能である。
筆者が北京に滞在していた2017年頃は、キャッシュレスやシェアリングエコノミーの普及、ロボットの活用が街中で少しずつ増え始めた段階であった。わずか1年足らずで人々の生活の質をさらに向上させる変化を遂げていたことは大きな驚きであった。
翻って、ネガティブな変化は景気の悪化である。例えば、北京市の繁華街である三里屯などは普段は多くの買い物客であふれているが、人影はまばらだった。北京市の人気のレストランに食事に行った際も、週末にもかかわらず空席が目立った。独身の日(11月11日)のネットセール直後だったことが、人々の消費意欲を抑制した可能性もある。ただし、現地でのヒアリングによれば、2018年のネットセールでは耐久財ではなく、消費財を購入する人が増えたとのことであった。人々の財布の紐は固くなりつつあるのかもしれない。
こうした背景には、収入の伸びの鈍化があるのかもしれない。中国では、給料アップを目的に転職することは一般的である。北京市においては、経営状況を良く見せるために人材を募集し面接まではするが、実際には採用しないといった企業もあり、転職市場が停滞しているという声もあった。また、都市部を中心に不動産価格の上昇は抑制されており、株価も冴えないことから、資産効果が期待しにくいことも要因かもしれない。
ネガティブな変化に対して、いざとなったら中国政府がインフラ投資などでテコ入れをするので過度な心配は必要ない、との声がほとんどであった。急激な景気の悪化には対応が必要だが、インフラ投資等に代表されるオールドエコノミーへの回帰は望ましくない。
2019年まであと数日。中国経済は今後どのような様相を見せるのか、期待と不安が入り混じる。(※1)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済見通し:内需不振で強まる減速傾向
2026年は自動車販売台数も急減速(あるいは減少)か
2025年09月24日
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日