サマリー
10月18日の上海総合株価指数は昨年末比24.8%安の2,486ポイントで引け、翌19日には複数の閣僚と経済金融担当の副首相が一斉に口先介入を行うという異例の措置が行われた。具体的には、郭樹清・中国銀行保険監督管理委員会主席が中国証券報の、易綱・人民銀行総裁が金融時報の、劉士余・中国証券監督管理委員会主席が新華社の、さらに劉鶴・副首相は人民日報、新華社、中央テレビ局のインタビューに一斉に応じる形で、株価下落は行きすぎである旨をコメントした。例えば、易綱氏は「株価下落は心理的な要因が大きい。現在の株価は歴史的に見て比較的低い水準にあり、中国の安定の中で上向くという良好な経済のファンダメンタルズとは相反している」などとした。株価の下落幅が拡大するにつれて、マクロ面ではマイナスの資産効果による消費への悪影響が、個別企業では株式担保融資に関連した追加担保の提供、それができない場合の融資減額による資金繰りの悪化などが懸念されており、中国政府として、これ以上の株価下落を回避するとの強い意志を表明したものとみられている。
筆者は、習近平国家主席の経済ブレーンである劉鶴・副首相がインタビューで何を語ったのかに注目したが、結論を先に言えば、肩透かしの感があった。
劉鶴氏への質問は5つあり、2つが株式市場、2つが民間企業、最後が経済・金融情勢と産業構造の変化についてであった。民間企業に関する質問が2つ用意されたのは、それだけ大きな問題を抱えていることの裏返しである。劉鶴氏は「いくつかの機関の職員は国有企業への融資は安全だが、民間企業への融資には政治的リスクがあると考えている」といった問題を指摘した。国有銀行と国有企業は歴史的に密接な関係があり、仮に貸出が不良債権化しても大きな責任は問われないため、銀行は融資に積極的になる一方で、こうした安全弁のない民間企業への融資には二の足を踏むということである。
「国進民退」の問題について、筆者は上記のように政策の恩恵が国有企業に集中し、民間企業は蚊帳の外に置かれるという状態を指すと理解していたが、最近はそれだけにとどまらないとの指摘がある。党中央・政府が社会主義化政策を推進するために、国有企業に民間企業を吸収合併させているとの懸念である。劉鶴氏は、「国有企業による民間企業の救済・支援である」として、社会主義化政策としての「国進民退」を否定したが、今年に入って国有企業に吸収合併された民間企業は優良企業とされるところが少なくなく、疑念は残されたままである。
劉鶴氏は最後の質問である、経済・金融情勢と産業構造の変化について答える中で、今後の重点として、①民間企業の発展を支援し、金融へのアクセスを高め、各種負担を軽減する、②国有企業改革を深化させ、より完全なコーポレートガバナンスを確立し、内部のインセンティブ・メカニズムの構築を強化し、核心となる競争力を高める、③金融システムは適応力を高め、実体経済に寄与する能力を増強する、の3点を掲げた。ここでも民間企業と国有企業がキーワードとなったが、一般論を繰り返した印象に終わっている。残念ながら「国進民退」は現在進行形であろうし、より複雑化しているとみておくべきなのであろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:堅調スタートも持続性には疑問符
不動産不況、需要先食いのツケ、中東情勢緊迫化
2026年03月24日
-
中国:第15次5カ年計画を読み解く
成長率目標は設定されず。数値目標は安全保障の優先度上昇を示唆
2026年03月16日
-
中国:成長率目標引き下げも達成は困難か
さらに強化した積極的財政政策は有名無実化
2026年03月06日
最新のレポート・コラム
-
日本は国際的な人材獲得競争で勝てるのか
外国人労働者の増加継続を見込むも経済下振れと円安がリスク要因
2026年04月07日
-
2026年2月消費統計
財は弱いもののサービスが強く、総じて見れば前月から小幅に増加
2026年04月07日
-
原油高・リスクオフ下での新興国の耐性は
脆弱性が最も懸念されるのは南ア。耐性が高いのはブラジル
2026年04月06日
-
トランプ大統領「米国政府と契約したければDEIをやめなさい」
大統領令を発出し、米国政府の契約先企業によるDEIへの取り組みを精査・規制する方針を明示
2026年04月06日
-
「第3次オイルショック」発生リスクへの日本の対応は十分か
2026年04月08日
よく読まれているリサーチレポート
-
米国:AIブームの裏側で高まる金融リスク
ITセクターの収益懸念が揺らすプライベート・クレジット市場
2026年03月13日
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
-
中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに
原油価格100ドル/バレルで26年度の実質GDP成長率は▲0.2%pt
2026年03月02日
-
ガバナンス・コード改訂による取締役会等機能強化
取締役事務局の役割を列挙、保有現預金の検証、「コーポレートセクレタリー」への言及など
2026年03月11日
-
「SaaSの死」は何を意味するのか?
AIエージェントが促すSaaS業界の構造変化、経済社会・雇用への波及
2026年03月03日
米国:AIブームの裏側で高まる金融リスク
ITセクターの収益懸念が揺らすプライベート・クレジット市場
2026年03月13日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに
原油価格100ドル/バレルで26年度の実質GDP成長率は▲0.2%pt
2026年03月02日
ガバナンス・コード改訂による取締役会等機能強化
取締役事務局の役割を列挙、保有現預金の検証、「コーポレートセクレタリー」への言及など
2026年03月11日
「SaaSの死」は何を意味するのか?
AIエージェントが促すSaaS業界の構造変化、経済社会・雇用への波及
2026年03月03日

