サマリー
◆今年に入って、人民元レートが上昇に転じているが、中国政府が資本取引規制を使って対外直接投資を抑制したことが、その要因になっていると見られる。
◆中国における最近の経験を見ても、資本取引規制により円レートを安定化させようとしていた1970年代の日本における経験を見ても、資本取引規制が効果をあげて為替レートに影響を与えるまでには、一定の時間がかかっている。今後中国政府が資本取引規制についての政策を対外直接投資促進の方向に切り替えたとしても、それによってすぐに人民元レートが下落し始める可能性は、あまり高くないと考えられる。
◆オフショア人民元の増減は、中国国内の外貨の増減に寄与し、人民元レートの上昇・下落を後押しする。他方、オフショア人民元は、人民元レートの変動による為替差益の最大化が考慮されて増減していることが考えられる。従って、将来の人民元レートについての期待が、過去の人民元レートのトレンドにより形成されていると、オフショア人民元の増減は、人民元レートの上昇・下落の両局面において、一旦始まったトレンドを後押しする性質を持っていることになる。
◆オフショア人民元の一部である香港の人民元預金の増減と人民元レートの変動との間のこれまでの関係は、オフショア人民元がこのような性質を持っているという見方と整合的である。
◆今年に入って人民元レートが上昇に転じた後、香港の人民元預金もわずかながら増加に転じている。今後中国政府が資本取引規制についての政策を対外直接投資促進の方向に切り替えたとしても、それによってすぐに人民元レートが下落し始める可能性はあまり高くないことを考えると、米国の長期金利の急上昇などの状況変化がない限り、最近始まった人民元レートの上昇は、長引く可能性があると考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
-
中国:内巻(破滅的競争)と上乗せ関税の行方
追加関税大幅引き下げでも製造業PMIは50割れが続く
2025年06月24日
最新のレポート・コラム
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
-
企業価値担保権付き融資の引当等の考え方
将来情報・定性情報を適切に債務者区分・格付に反映
2025年09月01日
-
“タリフマン”トランプ大統領は“ピースメーカー”になれるか ~ ノーベル平和賞が欲しいという野望
2025年09月03日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日