サマリー
8月下旬から9月初めにかけて、中国・北京市を訪問した。
毎回何かしらの発見があるのだが、今回は、スマートフォン決済の浸透ぶりに衝撃を受けた。物乞いがスマートフォン決済で施しを受けるのだという。人間ATMという言葉も初めて聞いた。スマートフォンがあれば十分で財布は持ち歩かないという人も増えているが、外国人が多い観光地などでは、現金しか通用しないところがあり、手数料(?)を上乗せしたスマートフォン決済と引き換えに、現金を融通する人々がいるのだという。
電子決済の浸透ぶりと余資の運用では、中国が先端を走っている。電子決済口座にプールされた資金は自動的にMMF等で運用される。中国で主流の電子決済方法には、アリババの「支付宝(アリペイ)」やテンセント(騰訊)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」などがあるが、例えば、前者に入金すれば「余額宝」と呼ばれる金融サービスによって付利が行われる。2017年9月18日時点の余額宝7日物の年利回りは4.0%であり、1年物預金基準金利の1.5%を大きく上回っている。ちなみに、個人が投資できる「余額宝」の上限は、100万元(約1,650万円)から2017年5月27日には25万元に、そして8月14日には10万元に引き下げられた。恐らく定期預金からの資金流出が無視できない規模で発生したことへの対応策なのであろう。
電子決済の浸透は、ネット販売の隆盛を支えている。中国のモノのネット販売は2014年に49.7%増を記録した後、2015年は31.6%増、2016年は25.6%増、そして2017年1月~8月は29.2%増と、高水準の伸び率が続いている。小売売上に占める割合も2014年の10.3%から2017年1月~8月には13.8%へ拡大した。日本のそれは5%程度であり、中国は日本以上にネット販売が浸透している。さらに、ネット販売と電子決済は相当辺鄙な地方でも利用可能であり、このことが特に店舗アクセスに制約のある農村の潜在的な消費需要を掘り起こしている可能性が高い。都市と農村の小売売上の伸び率を見ると、2013年以降は農村の伸び率が都市のそれを恒常的に上回るようになったが、その要因としてネット販売と電子決済の浸透を挙げることが可能であろう。
中国でこれほどのスマホ社会が到来し、ネット販売が隆盛するとは、私が7年3ヵ月の北京駐在を終えて、日本に帰国した2010年当時には、全く想像ができなかった。変化のスピードはあまりに速い。
本稿は、大和総研コラム 『物乞いのスマホ決済と人間ATM』(2017年9月22日)を一部修正のうえ、転載したもの。
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