サマリー
中国の不動産価格はなぜ上がり続けるのだろうか?図表1は中国主要地域の住宅価格の推移である。直近の約20年間では、価格の上昇速度が鈍ることはあっても、大幅に下がることはほとんどなかったことが分かる。上昇を続ける不動産価格の背景には中国経済の目覚ましい発展や都市の人口増加も関係しているが、地方政府の土地依存もその一つであろう。
中国の地方政府の財政収入は大きく2つに分けることができる。一つは予算収入であり、地方政府自体の収入(税収等)と中央政府からの資金(補助金、税収返還等)からなる。もう一つは地方政府性基金収入(以下、基金収入)であり、土地の使用権の売却益(以下、土地売却益)等が主な構成要素である。2015年における地方政府の収入は予算収入と基金収入合わせて17.8兆元(335.7兆円 2015年末時点為替レート1元=18.895円換算)であった。うち土地売却益は3.1兆元(58.2兆円)あり、17.3%を占める。この土地売却益は中央政府からの移転資金よりも使途に自由があり、地方政府の債務の返済の原資にも充てられているといわれている。土地は地方政府の財政を支える重要な資産となっている可能性が高い。
ここで問題となるのが、地方政府の土地売却価格は当然ながら周辺の不動産価格と連動することだ。周辺の不動産価格が下がれば、地方政府の土地売却益も減少し、債務の返済が困難となる地方政府が出てくる可能性もある。このため、これまで地方政府は中国特有の土地国有制度によって土地の供給をコントロールすることができ、ある程度土地の売却価格を管理してきたとされている。また、中央政府も不動産価格が急激に高騰すると抑制策を採用し、同価格の上昇率が0%近辺になると刺激策を打つ傾向にあった。結果的に、土地に依存した地方政府財政が不動産価格の下支えの一つとなってきたといえるのではないか。上昇は過度でなければ歓迎されるが、下落は許容できないかのようだ。国民の所得に比べ顕著に高い価格であっても、今後とも価格が上昇するという期待があれば需要が減らず、不動産市場が過熱するのも無理はない。
しかし、不動産への投資集中は中国市場がいまだ完全に対外開放されておらず投資できる資産が限られていることも影響している。現状は資金流出と人民元安が進むことへの懸念もあり、海外市場への投資は制限されたままであるが、いずれ市場の開放が進み、海外資産に投資できるようになれば、自然とそちらに流れる資金も増えるだろう。また一部の都市では人口増加に陰りが見え始めている。いつまでも不動産市場の歪みを許容することは難しいのではないだろうか。

本稿は、大和総研コラム 『中国:上がり続ける不動産価格と政府の土地依存』(2017年5月15日)を一部修正のうえ、転載したもの。
http://www.dir.co.jp/library/column/20170515_011970.html
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済見通し:内需不振で強まる減速傾向
2026年は自動車販売台数も急減速(あるいは減少)か
2025年09月24日
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
-
日本財政の論点 – PB赤字と政府債務対GDP比低下両立の持続性
インフレ状態への移行に伴う一時的な両立であり、その持続性は低い
2025年10月06日
-
世界に広がる政府債務拡大の潮流と経済への影響
大規模経済圏を中心に政府債務対GDP比は閾値の98%超で財政拡張効果は今後一段と低下へ
2025年10月06日
-
議決権行使における取締役兼務数基準の今後
ISSの意見募集結果:「投資家」は積極的だが、会社側には不満
2025年10月03日
-
2025年8月雇用統計
失業率は2.6%に上昇も、均して見れば依然低水準
2025年10月03日
-
米国の株主提案権-奇妙な利用と日本への示唆
2025年10月06日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日